2003 Fiscal Year Annual Research Report
樺太アイヌ語の母音の長短と北海道アイヌ語の高さアクセントの史的関係の解明
Project/Area Number |
12610559
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Research Institution | Kyuahu University |
Principal Investigator |
板橋 義三 九州大学, 留学生センター, 助教授 (50212981)
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Keywords | 母音の高低 / 母音の長短 / 音節 / 拍 / 音韻レベル |
Research Abstract |
今年度は最終年度である。これまで入手した文献、特に論文や報告書、拙論などは語のアクセントや母音の長さに関してのひとつの判断材料になると考えられる。また音声資料もできる限り収集し、それらをすべて音声解析ソフトで分析してきたが、その量は1年間では到底できる量ではなかった。そこで、できるだけ多くの音声資料を分析するように努めた。これは樺太アイヌ語の母音の長さのほかに母音の高低が音韻レベルで関係していないかどうかを分析するためである。以下のことが現時点では分析結果として分かっている。 これまでの分析からでは樺太アイヌ語の母音の長短と母音の高低はなんら一致しないようであることが分かった。つまり樺太アイヌ語においては母音の長い拍が必ずしも高いわけではなく、またその逆の低い拍が短いわけでもないようである。また同じ単語であってもそのピッチの位置が異なることがだいぶあり、ピッチそのものが文中においてどのように移動するのかがまだ不明であり、この点に言及した著書、論文はない。この点も明らかにすべき点である。また母音の長さに関しては孤立環境での単語でも文中における単語でも変化しないし、語中で母音が長い拍が移動することもなく固定していることから、従来言われてきたように、樺太アイヌ語に関してはこの母音の長短が音韻レベルの要素であり重要であることを再確認している。それに比べ、樺太アイヌ語では単語の母音の高低は文中では変化し、音韻レベルの変化ではなく、音声レベルの変化であり、現代日本語のような音韻レベルの母音の高低と長さが存在しているのではないと考えられる。この点は以前拙論でみた結論とは異なる。すなわち、樺太アイヌ語は母音の長短のみが音韻レベルの要素であり、母音の高低は音韻レベルではないと考える。 この分析結果から考えられる結論は樺太アイヌ語の母音の長短と北海道アイヌ語の母音の高低は概ね対応し、これは両方言のそれぞれの音韻レベルの要素は順に長短と高低ということである。本来存在したであろう音韻レベルの要素としては母音の高低であると推測される。それは現代の北海道アイヌ語のような閉音節から樺太アイヌ語のような開音節に変化していく過程は音節から拍への変化となり、拍が音韻レベルで重要になる過程で母音の長さ(拍)に違いができたのではないかと考えられる。これはちょうど古代日本語から次第に近代日本語に移る過程で音節から拍へし、母音の長短が音韻レベルへと昇格したのに類似している。 最後に、これまでの参考文献、拙論、そして作成した音声資料をもとに樺太アイヌ語の母音の高低、強弱と北海道アイヌ語の母音の高低の関連がないことも再確認した。この結果を受けて、樺太アイヌ語の母音の長さと北海道アイヌ語のピッチアクセントへの分岐について再検討をし、既に分析・考察を終了し結論を出している。
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