2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610568
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森本 浩一 東北大学, 大学院・文学研究科, 助教授 (20182264)
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Keywords | 虚構 / 文学 / 言語哲学 / 関連性理論 |
Research Abstract |
本年度の研究においては,特に次のような点が明らかになってきた. まず虚構を意味論(言語哲学)の観点から考察することの限界である.意味論の枠組では,虚構は現実言及の反対物としてしか扱われない.つまり,語においては指示対象が「ない」,文においては真でも偽でも「ない」というネガティヴな仕方でしか規定できないのである.フレーゲのScheingedanke,サールのpretenseなど,いずれも否定的な規定である.これは,認知的実質とは関係なく,言語形式と存在との関係だけを論じようとする意味論にとっては当然のことであるが,逆に言えば,意味論の枠内では,虚構の特徴を積極的に規定してゆくことが難しいということでもある. 文学のような虚構の言語使用に際してわれわれが行っていることの中心にあるのは,非現実性そのものに焦点を当てることではなく,独自の仕方で人物や出来事を創造することであり,描かれたものを享受することである.歴史小説を考えればわかるように,それが現実として真かどうかといったことは,実はたいした問題ではないのである.虚構の基本性質を考えるには,創造と享受において何が起きているかを明らかにしなければならない.ただし実際上は,研究者による内省可能性という制約から,「享受」の場面でどのような言語的経験が成立しているかを,まず問題にすることが重要である. この研究は文学現象に関わるものだが,上のような脱意味論的観点から考察してゆくと,日常の言語使用においても,実は言語それ自体の意味論的特質(指示や真偽)はさほど顧慮されず,自己の生存に切迫しない事柄については,虚構に対するのと近い態度で現実を眺めている場合が多いということが示唆されるはずである.
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