2001 Fiscal Year Annual Research Report
ラテン文学におけるセルギウス・カティリーナ像の伝承
Project/Area Number |
12610573
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
根本 和子 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助手 (50313185)
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Keywords | 西洋古典学 / カティリーナ / キケロー / サッルスティウス / 人物描写 |
Research Abstract |
本研究は、国家転覆の陰謀を企んだことで名高いルキウス・セルギウス・カティリーナの人物像が、ラテン文学の中でどのように描かれてきたか分析する。カティリーナ像の一つの典型は、陰謀勃発当時の執政官キケローによって形成されたものであり、彼は多くの著作で、国家を滅亡させる破滅的な人物としてカティリーナを描いた。だがその一方で、カティリーナの罪は非難しながらも、彼個人の能力は評価し、その死を半ば美化する例も認められる。このようなカティリーナ像の原型は、サッルスティウスの『カティリーナの陰謀』に見出すことができる。本研究は、以上のような二つのカティリーナ像が成立した政治的背景を考察し、更にそのような政治的背景がもはや無関係となった後代のラテン文学の中で、これらがどのように伝承されたかを追跡する。 本年度は、昨年度に引き続き、カティリーナについてのラテン文学中での言及の整理を行った。これらの言及は、主として(1)「カティリーナ」という固有名詞による場合・(2)「セルギウス」という固有名詞(のみ)による場合・(3)「国家に対する陰謀者」「不敬な輩」など、固有名詞なしで、間接的・暗示的な表現で行われている場合の三通りがある。(1)の例だけでも四百例にのぼるため、昨年度に続いて、これらの分析が主たる作業となった。その結果、時代が変遷するにつれ、カティリーナの陰謀自体に対する理解が薄れ、それが彼の人物像の理解にも反映しているのではないかと思われるような傾向が見いだせた。また、これと並行して、(2)や(3)についての検討も開始した。(2)については比較的稀であることが分かった。(3)のような間接的・暗示的な言及については、(1)や(2)のように、コンピューターによる全文検索が不可能であるため、主要な作家についてのテクスト・注釈書の索引などに頼らざるを得ず、まだある程度の時間を要すると予想される。
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