2003 Fiscal Year Annual Research Report
ルネサンス詩学と王朝歌学に見られる模倣理論の比較文化史
Project/Area Number |
12610575
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Research Institution | NIIGATA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
猪俣 賢司 新潟大学, 人文学部, 助教授 (40223292)
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Keywords | 模倣理論 / ルネサンス詩学 / 王朝歌学 / ルネサンス修辞学 / キケロ主義 / ネオ・ラテン / マルク=アントワーヌ・ミュレ / プレイヤード派 |
Research Abstract |
1.プレイヤード派の詩学であるデュ・ベレーの『フランス語の擁護と顕揚』(La Deffence et Illustration de la Langue Francoyse,1549)に見られる「模倣理論」は,スペローネ・スペローニを下敷きとしつつ,ピエトロ・ベンボに於ける母国語論としての側面を多く利用することにより,キケロ主義の価値基準を超えた「折衷主義的な」ものとなっている。同時に,マルコ・ジロラモ・ヴィーダの『詩法』(De arte poetica libri tres,1527)の影響により,修辞学から詩学へと大きくシフトした,より「文学的な」模倣理論となっている。 2.ヴィーダの『詩法』は,キリスト教的修辞学から生まれた詩学であり,韻律のハーモニーを重視する思想は,エディエンヌ・ドレの『翻訳の手法』(La Maniere de bien traduire d'une langue en aultre,1540)にも受け継がれ,ベンボに代表されるように,ラテン語散文に於けるキケロ主義が「母国語の詩学」を押し進めた要素が大きいのだが,キケロ主義的な単一主義とラテン語至上主義は,母国語詩の「韻律」の固有性・多様性を認知する方向へと変容してゆく。 3.日本の詩学に於ける「模倣理論」は,単一主義(キケロ主義の等価物)はあり得ず,『古今集』の伝統を主軸としつつ,王朝歌学に見られる和漢の二重言語文化を反映した折衷主義的方法を有していた。ルネサンス期の西欧の俗語に較べ,日本語の文化的地位が既に高かったこともあるが,日本の表現理論力が,主情主義的であったことに加え,この様に極めて折衷主義的な模倣理論を内包していることが,唯一の模倣対象の下に"普遍性"を志向するキリスト教布教が成功しなかった要因でもあり,日本と西欧の修辞学思想の本質的相違を示していると共に,日本の「体系的詩学」が西欧の詩学に先行しているという比較詩学の視点を裏付けることにもなる。
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