2000 Fiscal Year Annual Research Report
金融取引のグローバル化に対応した法制度設計の基本原理に関する研究
Project/Area Number |
12620036
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野村 美明 大阪大学, 大学院・国際公共政策研究科, 教授 (20144420)
|
Keywords | 国際金融 / グローバル化 / 経済統合 / 証券化 / ネッティング / 法改革 |
Research Abstract |
金融取引のグローバル化に対応するためには、国際私法の整備が不可欠である。なぜなら、国際金融取引にとっては、市場間・当事者間で適用される法律や規制が異なることをいかに利用するか、または反対にいかにこれらの相違に左右されないように工夫するかがその取引の成否を決定するからである。 日本の国際私法は、いまだに学説法たる性格を色濃く残している。同様の傾向は、特に法選択規則について、各国で歴史的に見られた通りである。しかし、最近のヨーロッパにおける国際私法の立法および改正動向は、歴史的な大変革期に訪れる法改革ムードの高まりを示すものといえる。 日本における立法過程のハードルの多さ、立法スタッフ不足、訴訟の頻度の相対的低さを考慮すれば、立法積極主義の進展が国際私法におよんで来るには時間がかかるのかもしれない。しかし、法的リスクおよびコストを含む各種のリスク・コスト計算によって取引を組み立てることの多い国際金融においては、国際私法における立法消極主義は、競争力のある金融商品開発を困難にし、また契約紛争の合理的解決を妨げ、さらには日本での訴訟を躊躇させる一因となっているように思われる。 今年度は、「国際金融と国際私法」国際私法年報第2号89〜115頁(印刷中)の論文にて、ヨーロッパの通貨統合に対しても、伝統的な理論で一応の対応ができることを確認した。他方、明確で予見可能な国際私法規則を定立することのメリットは、金融センターのニューヨーク州の法政策をみても学ぶべきところが多い。また、債権譲渡と債権の証券化や電子的送金の分野では、明確なルールの作成によって取引のインフラを整備し、取引の安全と予見可能性を高める必要がある。 国際私法学は、国際金融法の分野における積極的な立法へむけて、理論の精緻化を進める一方で、具体的政策を提案していくべきである。このことが、長年にわたってこの分野において蓄積されてきた知的資産を広く社会に伝え、共有していくことにもつながる。日本の国際私法においても、法改革の時代が訪れたのではないだろうか。
|