2002 Fiscal Year Annual Research Report
相手方による差別価格の独禁法上の規制に関する比較法的実証研究
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12620060
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Research Institution | NIIGATA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
沢田 克己 新潟大学, 法学部, 教授 (40187290)
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Keywords | 差別価格 / イギリス / 競争法 / 差別的取扱い / 独占禁止法 / 競争政策 / 支配的地位の濫用 / EC競争法 |
Research Abstract |
イギリスにおいては、競争法(Competition Act 1998)が1998年に制定され、2000年3月1日に施行された。それまではEC独禁法と歩調をあわせていたとは言い難かったイギリスの独禁法は、EC独禁法を直接に参照するシステムに変更された。EC法における経験は本法のイギリス国内における適用を方向づけることになるのであり、本法の運用機関は、EC法における先例を厳格に守ることを求められる。このような法改革により、従来から弊害規制主義であるとされていたイギリス独禁法にはEC独禁法の原則禁止主義(prohibition-based system)が新たに導入されることとなった。 競争法第1部の第1章および第2章の部分は、それぞれEC条約81条および82条にならって新設された規定であり、1998年競争法の中心部分をなす。差別価格規制は第2章禁止のひとつとして、市場支配的地位の濫用の規制として構成されている。 1998年競争法における差別価格規制は、旧法におけるものと実体的側面での連続性はみられない。したがって、個別の文言の解釈は別として、旧法において英国国内当局が形成してきた先例は、1998年競争法においてほとんど意味をなさない。 競争法18条は市場支配的地位にある事業者を規制の対象とするのであるから、その有無の判断の前提として、市場の画定が必要である。公正取引庁が市場の画定において用いる技術は、「仮想的独占者のテスト」(hypothetical monopolist test)と呼ばれる手法である。同庁は、支配的な程度の市場力を「通常であれば事業者が競争的行動様式をとることを確保するであろう制約が有効に働いていない状況」をいうと定義する。支配的地位を有する事業者は、濫用行為を禁止される(18条2項)。公正取引庁は、差別価格は主に搾取的濫用の観点からこれを規制するとするが、忠誠割引(fidelity discounts)は排除的濫用に当るとはいえ垂直的制限の一類型としてこれを規制するとしている。 イギリス法においては、ドイツ法におけると同様に、差別価格規制は市場支配的地位の濫用の規制の枠組みの中で行われている。わが国の独禁法は差別価格に対しては不公正な取引方法としての規制を行うにすぎず、市場支配的地位の濫用の規制をそもそも行わない現状からみて、かかる展開はわが国に対して重要な立法論上の示唆を持つものと思われる。
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