2001 Fiscal Year Annual Research Report
日系企業の東アジアでの事業展開が長野県経済に及ぼす影響と企業対応
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12630075
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
宮嵜 晃臣 専修大学, 経済学部, 助教授 (30200158)
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Keywords | 長野県経済 / 希望退職者の募集 / 輸出誘発効果 / 輸出代替効果 / 逆輸入効果 / 部品の現地調達 / 中国深セン・東莞 / タイ |
Research Abstract |
平成13年の長野県経済はかつて経験したことのない厳しい事態に陥っている。倒産件数では年間265件で、1986年の311件以来の高水準であり、内容的には不況型倒産が6割弱を占め、IT関連分野でも51件の倒産が記録された。 また、稼働率が急速に悪化し、各地で希望退職者の募集が相次いだ。代表的なのは諏訪地方のT社、ならびにS社の工場閉鎖、SP社での希望退職者の募集、北信地方では長野市のF社、戸倉上山田町のA社、坂城町のN社、東信では上田市のT社、小諸市のN社、御代田町のS社で希望退職者の募集が、中には2次にわたっておこなわれた。叙上の東北信の工場は国道18号線上に位置しており、東北信の18号線上の産業集積地が「リストラ」の代名詞的存在になりつつある。その結果、県内の有効求人倍率は平成13年12月には、現行の調査方法を採用した1963年以来最悪の0.66倍(平成14年1月にはさらに悪化して0.61倍)を記録した。2001年1月から12月にかけて0.51ポイントの低下を示している。1986年以降、長野県経済は民生用電子機器から電子部品・デバイス、さらにはそのモジュール化、チップ化へと産業構造の比重をシフトすることによって、東アジアへの生産移管が続く中、2000年まで良好な経済的パフォーマンスを維持してきた。貿易収支上の要因として捉えると、東アジアへの直接投資の部品・デバイス輸出誘発効果によって、東アジア向けの同部門の輸出増が、良好な経済パフォーマンスを支える要因の一つであった。 しかし今回はこの安全弁が最早機能しなくなったことを示している。今回の経済パフォーマンスの急激な悪化の要因を列記すると、国内長期不況による国内需要の減退、グローバル化したIT不況による在庫形成、そして日系企業の東アジアでの事業展開の影響があり、第3の要因が本研究計画のテーマである。日系企業の東アジアでの事業展開によって、輸出代替効果ならびに逆輸入効果が増大し、現地調達の拡大にそうかたちで、日系電子部品、デバイス、部材メーカーのシフトが1993〜1995年の超円高以降急増し、輸出誘発効果を低下させたが、それが長野県でも、上記の厳しい事態を発生せしめているのである。筆者はこの夏期休暇中を利用して、それぞれ1週間ずつかけて、中国深セン・東莞市ならびにタイの現地法人の調査を実施した。中国では7法人(うち長野県企業が出資した法人は6法人)、タイでは10法人(うち長野県企業が出資した法人は4法人)で、輸送機械メーカー1社を除けばすべてエレクトロニクスメーカーである。中国では独資が3社、4社が来料加工で、独資形態の1社は事業部を超えたジョブローテンションを含め日本的生産システムが定着し、来料加工形態の企業でも作業標準の中に「品質作込」が優先度高いものとして組み込まれ、実現し、「公差」も日本同様の値、PPM管理で、生産能力の向上が確認できた。またタイではさらに日本的生産システムの定着が確認された。人事面についてはローカルスタッフに任せ、QC、提案制度が定着していた。従業員2300人のうち日本人スタッフは5人の法人もあり、そこでは日本に派遣された現地スタッフを中心に現地人による日本的生産システムの管理が実現され、こうした日系企業の現地法人の生産力の向上が、部品・デバイス・部材の現地調達の拡大を可能にし、こうしたことが長野県からの部品・デバイス・部材の誘発輸出効果の逓減をもたらすものになっていると考えられるのである。
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Research Products
(1 results)