2000 Fiscal Year Annual Research Report
近世後期信州蚕種商人の蚕種取引構造に関する研究-蚕種取引をめぐる個人的長期取引の実態分析
Project/Area Number |
12630079
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長谷部 弘 東北大学, 大学院・経済学研究科, 教授 (50164835)
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Keywords | 上田 / 市場 / 蚕種 / 上塩尻 / 長期取引 / 商人 / 蚕種仲間 / 信達地方 |
Research Abstract |
I 本研究では初年度(2000年度)、以下のような内容で資料調査と資料整理を実施した。 (1)奥州の蚕種仕入先および、「種場」関係の資料調査として、a)福島県伊達郡桑折町史・梁川町史編纂室に寄託ないし所蔵されている養蚕家(石幡吉三郎家・石幡吉之丞家・亀岡源四郎家;中村佐平治家・大竹惣兵衛家・横山家・中木直右衛門家等)、(2)福島県立歴史資料館に寄託ないし所蔵されている養蚕関連文書(中木直右衛門家・佐藤家・大橋健祐家)、(3)群馬県立文書館に寄託ないし所蔵されている文書(荻原家・黒岩家・田島弥平家等)、および(4)滋賀大学史料館(中井家・外村家等)の資料調査を実施し、蚕糸類の市場に関する史料および蚕種取引に関する資料のコピーおよびマイクロ撮影を行った。なお、当初予定していた長野県上田市上塩尻村内史料に関する調査は、調査相手の都合上、次年度以降に繰り延べすることにした。 II 以上の調査は継続中であり、史料分析も継続中であるが、これまでの収集資料とその整理・分析からおおよそ以下のような点について新たな知見および展望を得つつある。 (1)近世後期における中心的な蚕種生産地域である奥州信達地方では、優良蚕種を製造する「蚕種家」の多くが、同地域内および山形、奥仙台、そして関東の上州地方にわたる諸養蚕地域に「種場」と呼ばれる長期的な信用取引市場を保持していた。(2)信州の蚕種商人達は、18世紀後半以降、奥州信達地方の蚕種家と競合する上州地方とともに他地方に市場を開拓するため、信達地方周辺で優良蚕種の「切り出し」生産を行ったり、独自の仕入れチャンネルを確保したりしながら市場の開拓を行った。(3)長期的な信用取引を行うに際し、信達地方の蚕種家・蚕種商人および信州の蚕種商人達は養蚕技術の保持・伝播を重要な要素としていた。(4)長期取引の顧客市場である「種場」は、寛政期から文化・文政期にかけて、それ自身がさまざまな理由で売買の対象となり、株仲間としては認証されていなかった蚕種仲間がその売買秩序を保持する大きな役割を担った。
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