2000 Fiscal Year Annual Research Report
電子移動/S_N2反応のボーダーライン機構の解明:新しい反応論への展開
Project/Area Number |
12640517
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山高 博 大阪大学, 産業科学研究所, 助教授 (60029907)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 徳雄 大阪大学, 産業科学研究所, 助手 (80195370)
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Keywords | 電子移動 / S_N2反応 / 分子動力学 / 境界領域 / 有機反応機構 / 遷移状態 |
Research Abstract |
2つの典型的な機構領域の中間に位置する領域は境界領域と呼ばれる。その様な反応では、(1)二つの機構の切り替わりがどのようにして起こるか、(2)機構の切り替わりの途中で経由する見かけ上中間的な反応は両機構の重ね合わせなのか一つの中間的な性格の反応なのかといった、有機反応の本質を理解する上で興味深い問題が未解決で残されている。ET/S_N2境界領域に分類される塩化メチルとホルムアルデヒドラジカルアニオンの反応を取り上げ、その反応経路の微視的機構についてab initio分子動力学(MD)法によって解析した。まず、反応の出発物、反応前錯体、遷移状態、反応後錯体、および生成物をab initio MO法(MP2およびHF/6-31+G^*)によって求めた。その結果、極限反応座標上でS_N2生成物に繋がっている遷移状態が求まった。次に遷移状態構造から、HF/6-31+G^*レベルでab initio MD法計算をおこなった。その結果40本のトラジェクトリーのうち、原型に戻るものに加えてET生成物および出発系に向かう2種のトラジェクトリーが得られた。S_N2のトラジェクトリーでは、反応初期にメチル基上に大きなスピンが発生ししたが、これは一電子シフトに対応していると考えられる。ETのトラジェクトリーでは、数フェムト秒の時間帯で急激な電子移動が起こった。今回の結果は、S_N2/ET境界領域に位置する反応の一つの遷移状態がS_N2およびETの2種の生成物を与えうることを示している。このことは、反応速度と生成物比との間に相関を仮定し、生成物比から遷移状態構造を議論する従来からの反応論の概念が、少なくともこのような境界領域の反応系では、成立しないことを意味する。
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