Research Abstract |
アスパラガスやホウレンソウを組織培養手法により増殖させると,性の転換が起こることが知られている。本研究では,その原因を明らかにするため,間性化の起こる実体を調査し,間性化個体の生育特性,生殖器官の形態的変異および結実率の調査を行った。また,組織培養によって実験的に間性化個体を作出することによって,組織培養が性の転換におよぼす影響について調べた。 アスパラガスの花は両性花として発生するが,雄花の子房は発生途中で発育不全を起こし,雌性花では葯が退化する。事実"MW500W"の雄性花には小型の子房が存在したが,胚珠は花の成熟とともに発育不全を起こし死滅していた。一方,両性花を着生する雄性系統は,通常の雄花よりも大型の子房を持つ花を着生し,一部の花には,成熟した後も生きた胚珠と胚嚢様の構造が存在していた。さらに,両性花を着生する雄性系統の花には子房の大きさや花柱の長さなどに大きな変異が見られた。以上の結果から,間性化した雄性株に着生する花は,胚珠の発達の程度と子房の形態に変異があり,それが一部の花の稔実性と関係していると推定された。 一方,すでに確立された方法によって雌性あるいは雄性ホウレンソウを組織培養し,植物体を再生させた。植物体は数か月の培養の後に花を着生したので,その時点で雌雄性を判定した。その結果,雄の個体を組織培養の起源とした場合,雌および間性個体の発生がみられたが,雌個体の組織を起源とした場合,雄あるいは間性の個体は生じなかった。このことから,組織培養による性の転換に関しては,雄と雌では感受性が異なり,雄性からの変異が起こりやすいことが明らかとなった。 現在,性の転換が遺伝子の変異によって起こるのか,あるいは発現レベルでの変異によって起こるのかを明らかにするため,性の変異と連動して変化するタンパク質を特定し,その遺伝子を同定する作業を進めている。
|