Research Abstract |
BPS(行動学的,精神学的症候)を呈する軽症から重症のアルツハイマー病患者を対象として,これらの症候に対するアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の効果と,セロトニン・ドーパミン拮抗薬を併用した場合の効果とを比較検討した.また同時に,BPSの改善が(1)患者の認知機能障害の程度と関連するのか,(2)PETによる局所脳糖代謝率の変化と関連するかを検討しようとした.ただし,予定した局所脳糖代謝率測定が諸般の事情により研究途中で実施困難となったため,その後は99mTcHM-PAO SPECT脳血流検査を実施した. 対象はNINCDS-ADRDAの診断基準でPossible ADあるいはProbable ADをみたす外来通院中のアルツハイマー病患者のうち,信頼できる介議者と同居し,80歳以下で,BPSを呈し,本研究実施に書面同意した39人であった.BPSの内訳は,頻度の高い順に無為,異常行動,妄想,易刺激性,抑うつ,不安,脱抑制,興奮であった.このうち28人に対してはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のみを使用し,11人に対してはセロトニン・ドーパミン拮抗薬を併用した.アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のみ服用群においては,無為、抑うつが改善され,セロトニン・ドーパミン拮抗薬の併用群においては,妄想,異常行動,易刺激性,興奮が改善した.認知機能障害の重症度とBPSの改善度の関連は明らかではなかった.また,BPSの改善が局所脳糖代謝率の変化と関連するかどうかについては十分検討することはできなかった. アルツハイマー病のBPSのうち最も頻度の高い無為や中等度の頻度の抑うつは,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のみでも改善すること,しかし妄想,異常行動,易刺激性,興奮などに対しては,セロトニン・ドーパミン拮抗薬の併用が必要なことが示された.
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