2000 Fiscal Year Annual Research Report
貝類の嗜好特性の加熱・貯蔵による変化-なぜトリガイを生食しないか-
Project/Area Number |
12680125
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
畑江 敬子 お茶の水女子大学, 大学院・人間文化研究科, 教授 (50156337)
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Keywords | トリガイ / 貯蔵 / 加熱処理 / 遊離アミノ酸 / ATP関連化合物 / テクスチャー特性 / 鮮度 |
Research Abstract |
わが国では、多くの魚貝類を食用としているが、特に新鮮な魚貝類を生で賞味するという習慣がある。トリガイでは黒紫色の足部が可食部の主体で、すし種、酢の物として食されるが、生食されることは少なく、一般には湯通しされることが多い。生食されない理由として鮮度低下が早いこと、黒紫色の退色しやすさなどが考えられるが、その詳細は明らかではない。そこで本研究では、生トリガイ足部の貯蔵および加熱処理による食味の変化を調べた。 2000年5〜7月に三河湾で捕獲された殻付き活トリガイから足部のみを採取した。この生試料および85℃中で15秒間加熱処理した試料につき、4℃で10日間貯蔵した。試料調製当日においては、遊離アミノ酸およびAMPなどの呈味成分は生トリガイ試料の方が加熱試料より多く含まれていた。一方、官能評価では、生試料は生臭く、加熱試料はうま味が強いと判定された。生および加熱試料とも貯蔵に伴い重量が減少し、貯蔵10日目にそれぞれ元の重量の88%および87%となった。また、生試料では、黒紫色の退色が進行し、白さの度合いを示すL値が増加した。ATP関連化合物の測定結果から、貝類の鮮度指標とされるK'値は貯蔵5日目および7日目にそれぞれ18%および42%となり、貯蔵5日目以降に腐敗に至るものと判断された。一方、加熱処理により、引っ張り強度および伸び率が増加して組織は強靭となった。これら加熱試料のテクスチャー特性は、貯蔵期間中維持され、色調も保持されていた。 このように、生トリガイ試料は呈味成分に富むものの、生臭さが強かった。また、貯蔵による鮮度低下は他の貝類とほぼ同程度で進行したが、貯蔵中の退色が著しく、生での貯蔵は適さないと考えられた。一方で、加熱処理により、色調およびテクスチャー特性が保持されることが示された。
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