2001 Fiscal Year Annual Research Report
基礎造形教育におけるデッサンの目的と意義-絵画作品の幾何学的実証を通して-
Project/Area Number |
12680239
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
蝦名 敦子 弘前大学, 教育学部, 助教授 (20302010)
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Keywords | デッサン / 基礎造形教育 / 均衡・調和 / 尺度 / 『画語録』 / 石濤 / 一画論 / 黄金比 |
Research Abstract |
本研究はデッサンに着目し、西洋のデッサンという概念のみならず、日本が大きく影響を受けてきた東洋画も視野に入れながら、デッサン-造形教育の基礎の問題について、新たな方法論によって再検討したものである。 デッサンの訓練や修練を通して、美の本質の一つとしての均衡・調和の感覚が養われるという理論的仮説を立て、科学的とくに幾何学的手法を用いることによって、その検証を試みた。その際、西洋では、均衡・調和の典型としての黄金比がこれまで造形の秘法として尊重されてきている。この黄金比を各時代を代表する記念碑的な芸術作品に適用してみることによって、画家の訓練された感覚によって作られた作品には、黄金比を充足する美的尺度、秩序の感覚が秘められていることが証明された。しかもこの仮説は、西洋の絵画ばかりでなく、広く東洋の絵画や書芸術にも同様に適用されることが証明されたのである。 本研究における問題設定としてのこの理論的洞察は、石濤の著作『画語録』の「一画」論に示唆を受けた。画論とデッサンを比較させることによって、造形教育の基礎としてのデッサンの問題について、東洋も視野に入れながら共通点を考察し、その具体的方法論として、視点の意識と、その固定した視点から面の方向を観察する事の重要性が導き出された。 美術教育の中で、暖昧にとられかねない美的なものとしての均衡・調和の問題に、より明確な指針を与えるべく、科学的に踏み込んだ形で応えたものであると同時に、そのための基礎造形教育における方法論の一つとして、視点の意識と面の方向の観察が重要であることを呈示した。デッサンとは、極言すれば、自らの視線を鍛えることであり、自然の尺度、秩序を自分の感性の中に育てていくことこそが大事であると結論づけた。
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