2002 Fiscal Year Annual Research Report
人里の地衣類Lecanora muralisの消長と繁殖能力についての研究
Project/Area Number |
12680521
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
宮脇 博巳 佐賀大学, 文化教育学部, 助教授 (70190824)
|
Keywords | 大気汚染指標植物 / 地衣類 / Lecanora muralis |
Research Abstract |
著名な自然保護地域の植生についての撹乱情報は,しばしばマスコミを通じて報告されるし,研究も進んでいる.さらに,大気汚染による被害は耐性の弱い種から順次被害が出ると普遍的に考えられてきた.ところが,何らかの広域におよぶ大気汚染か地球環境の変化か,従来人里に見られ,適当な撹乱を好むとされる地衣類Lecanora muralisは,生育地域を減らしているように思われた.実際申請者が調査した結果,1983年までに確認が認められた地点で再度されたのは,鳥取県若狭町と広島市の旧広島大学理学部1号館屋上だけであった.オホーツク海を望む北海道斜内神威岬,風光明媚な岩手県遠野,岡山県津山市北部の日本原,広島県滝山峡などでは,確認できなかった.滝山峡の場合,この20年間の間にダム工事が行われたことが大きな原因である.神威岬などの地域では,わずかな見落としがあるかもしれない.しかし,少なくとも,かつて一面覆っていた同種がほぼ全滅状態であることを明らかにした.残念ながら,旧広島大学理学部屋上以外は,繁殖器官を持つような満足な標本はなく,繁殖能力の実験は達成されずにいる. 広島市中央部,国道2号線に隣接する旧広島大学は,昭和20年に原爆を受けている.その際に,同種は全滅したはずである.戦後生育を開始し,現在に至っている点に大いに興味を持たれた.本種が赤レンガではなく,赤レンガをとめている戦前のセメントの上のみに生育する点に大いに興味が持たれた.「大陸由来の酸性雨により日本産の同種が衰退したが,たまたま塩基性の強いセメントの上に付着した本種が繁殖を許された」という仮説に到達したが,現在成果を論文を発表するに至っていない.
|