2001 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの聖なる山の基礎研究(特に都市空間との関連で)
Project/Area Number |
12710011
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
木村 武史 山口大学, 人文学部, 助教授 (00294611)
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Keywords | 泰山 / 聖なる山 / 空間 / 古代中国 / 聖性 / 王権 |
Research Abstract |
古代都市の空間構造との関係で聖なる山としての泰山の聖性の構造を考察するのが本研究の主要な目的であったが、実際に現地に赴き、泰山に登拝し、文献資料から明らかになったのは、都市空間が構築される以前に、泰山は既にその地理的位置ならびにそれが持つ空間的方向性によって基本的聖性が規定されていたということである。特に泰山周辺で発掘された大〓口遺跡から出土した図には泰山と思われる上に太陽と雲(あるいは煙)が掛かっている。大〓口遺跡は母系制社会から父系制社会への移行を示しており、泰山の基本的聖性はこの古代に遡ることができる。つまり太陽の動きに代表される天空の変化と大地の上の山の空間の無変化とが一つの聖性の空間を構成していた。そして動かず大地から隆起している山の形態そのものに根付いた聖性が喚起されていることが分かる。また古代中国では『山海経』に見られるように、山は異形の動物が住まう空間としての聖性を担っていた。これら点は、日本の幾つかの聖なる山、例えば、比叡山や高野山が都の空間と密接に結びついていたのとは異なり、聖なる山に関しての新しい認識であった。そして、孔子の時代において既に泰山は王の祭祀と結びついていることから、泰山は特別な王権との強い結び付きで、他の聖なる山とは異なる基本的聖性が構築されていると言ってもよいであろう。しかも秦の始皇帝以降、泰山における祭祀は中国全土を支配した皇帝だけに許される儀礼として受け止められており、中国という空間全体との意義が強いことが明らかとなった。しかし同時に、後漢の頃に明らかになるように、泰山は天と地の間に位置し、岩(堅)と雲(柔)が交わり雨を上から下へと降らす、相反する意味が融合される地点とも見なされるようになる。この意味では太極になぞらえられる地点である。また、五嶽の制度ができ、泰山が五嶽の筆頭とされ、後に盤古神話において泰山が盤古の頭とされたのは、上記のような先史時代からの重要性の上に王権的特質が重なったことから成立した象徴的意義のためであると思われる。今日でも泰山近くに盤古が上を向いた顔とされる山があることから、その山としての形に聖性を喚起する力があると思われる。
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[Publications] 木村 武史: "オーストラリア・アボリジニの宗教的エコロジーの研究"地球環境研究. 50. 25-42 (2001)
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[Publications] 木村 武史: "聖なる山としての高野山"日本思想における「聖なるもの」をめぐる倫理学的基礎研究-「浄」と「穢」の多角的考察(研究課題番号10610033). 37-57 (2001)
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[Publications] 木村 武史: "アイヌ宗教における「自然」の宗教的意味"現代日本の民衆宗教における自然観・文明観・救済観の比較宗教学的研究(研究課題番号11410008). 73-85 (2001)
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[Publications] 木村 武史: "北米大平原地域のサンダンス"松村・渡辺編『太陽神の研究』(上)リトン. 267-287 (2002)