2000 Fiscal Year Annual Research Report
年代記載資料を伴う内外伝世品の調査分析を基礎にした近世蒔絵史の研究
Project/Area Number |
12710028
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Research Institution | Kyoto National Museum |
Principal Investigator |
永島 明子 京都国立博物館, 学芸課・工芸室員 (90321554)
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Keywords | 漆 / 輸出 / 貿易 / 近世 / 工芸 / 蒔絵 / 十七世紀 / 十八世紀 |
Research Abstract |
本年度は歴代清朝皇帝の持ち物の中にある日本製漆器と、旧東ドイツ圏の古城に伝わる日本製漆器の調査を中心に行った。また関連文献の収集にもあたった。 台湾故宮博物院には清朝の皇帝が蒐集した宝物を納める多宝格(中国版キャビネ・ド・キュリオジテ)が多数伝わっており、どの宮殿から台湾にもたらされたものか、また、どの皇帝が愛玩したものか等が、文書によってわかる場合がある。大陸にはより詳しい記載のある文書が伝わる可能性もある。今回の調査ではこの多宝格の中に十七世紀末から十八世紀の日本製輸出漆器と思われる小品が、少なくとも22件はあることが確認された。同類の小型の漆器がフランスルイ王朝の王妃マリー・アントワネットの旧蔵品の中に含まれるが、そのうちのいくつかに漢字で人名を記した札が貼られている。恐らく十八世紀前半の清朝の官吏と思われるその人物は、康煕帝にスパイとして仕えた蘇州の織造の監督で、彼の残した記録に港で外国製の漆器を荷揚げした様子が描かれていることもわかった。従って、直接的な証拠はまだ得られないが、この手の小箱類が中国船によって日本から輸出され、中国経由でヨーロッパに送られた可能性が大いに高まった。 旧東ドイツ圏のゴータにあるフリーデンシュタイン城には十七世から十九世紀にわたる多数の日本製輸出漆器の類が伝わっている。中には全く当初の姿を留めている十七世紀前半のものと思われる南蛮漆器などもある。同城にはまた十七世紀、十八世紀、十九世紀のそれぞれの蔵品目録が大量に伝わっている。ドイツの研究者にもそれほど知られていないというこの史料では「中国の漆器」等というおおまかな表記がほとんどのようであるが、これらを詳細に検討することによって、あるいは特定の漆器の制作年代の下限が見出されるかもしれない。旧共産圏の小規模な町の古城にはまだまだこの種の資料が眠っているらしいという手ごたえが得られた。
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