Research Abstract |
他動詞的行為とは動作主以外の何物かを対象として行われる動作である。本研究の目的はこの他動詞的行為表象の形式と内容,脳内基盤を明らかにすることである。本年度は,まず,実験に用いるための呈示刺激を統制する目的で予備調査を行った。行為を喚起しうる物品の線画90種を用意し,各線画に対して,描かれているものの名称,線画の複雑さ,描かれている物品へのなじみ深さ,線画と物品名称とのイメージ一致度,行為表出容易度,使用頻度,物品を使用する際の動作を表す動詞,計7項目を評定させる質問紙を作成,データ収集を行い,のべ400名の回答から各属性の統計的情報および属性間の相関を得た。その結果,動詞は名称に比べて回答に多様性が存在すること,行為表出容易度は使用頻度に比べて評定値のばらつきが少なく刺激統制に有用であり,また他の属性の多くと有意な相関を示すことから行為の代表的属性であると考えられること,などが明らかとなった。以上の結果から統制された刺激を視覚呈示し,制限時間下において物品名呼称,動作表出,動詞生成の3条件で反応を行う実験を行い,撮影されたVTRをもとに誤反応を分析したところ,行為表出においては動詞生成に比べ視覚的誤反応の比率が高く,逆に動詞生成においては行為表出に比べ意味的誤反応の比率が高いという結果が得られた。このことは,他動詞的行為の言語的表現(動詞)と非言語的表現(動作)の間には,少なくともその反応形式によって,依拠する情報処理がいくぶん異なることを示唆する結果であるといえる。現在は,以上の結果をふまえ,健常被験者の手指動作データを収集中である。 次年度はこれらの手法および解析結果を臨床・実験神経心理学的に脳病変例に適用し,他動詞的行為表象の内容と形式,さらに脳内基盤に関する知見を深めたい。
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