タイにおける受験の比較社会史-少子化過程における「進学競争」の変容-

2000 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 12710092
• Research Institution: Japan Women's University
• Principal Investigator: 尾中 文哉 日本女子大学, 人間社会学部, 助教授 (90233569)
• Keywords: 受験 / 少子化 / 競争 / タイ / 学校 / バンコク / チェンマイ / 都市化

Research Abstract

本年度の成果はおよそ二つの領域に分けることができる。A.第一は、既に所持していた新聞マイクロ資料の分析による受験の変容についての予備的な考察である。(予定では、新たに購入したものの分析にも入る筈であったが、資料の到着が遅れたため、それはできなかった。)それによると、50年代においても、すでにバンコクに地方から進学してくる大量の学生がおり、それを受け入れている私立学校(Roong Rian Raat)の設備の不十分さが繰り返し問題となっていることが明らかになった。またその背景には、ユネスコなど国際機関の指導の下での、地方での学校教育普及の精力的活動があることがわかった。70年代になると、バンコクでの学校はかなり整備され、逆に大学入学難から公開大学であるラムカムヘン大学設立の必然性が明らかになった。それと同時に中学生・高校生による非行なども増えていることがわかった。B.第二は、夏休み中の中等学校(Matthayom)卒業生現地聞き取り調査による受験の世界の変容の記述である。今年度はバンコク二校、チェンマイ二校(いずれもエリート校と中位校)を取り上げて調査した。それによると、バンコクでは、60年代を堺に、それ以前はエリート校でもあまり入学は難しくなかったが、それ以後は入試の段階でかなり激しい競争が存在したことが明らかになった。とはいえ大学入学に関してはすでに50年代からかなり難しく、塾すらも存在したことが明らかになった。チェンマイではそれより若干遅く、70年代以後に中等学校入試競争が激化したようである。C.少子化についてのデータも集まってきたが、これまでのところ、少子化にともなって受験競争が弱まるという関連はどこにも見出すことができない。むしろ逆に、少子化の始まる60年代以降に受験競争は強まっていくといえるのである。もっとも、だからといって即座に少子化が受験競争を引き起こすともいえない。都市化の進展や学校の整備などの要因もあるからである。