2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12710106
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
中村 文哉 山口県立大学, 社会福祉学部, 講師 (90305798)
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Keywords | ハンセン病 / 沖縄・愛楽園 / 沖縄社会 / 差別問題 / 社会調査 / らい予防法 / キリスト教 / 沖縄戦 |
Research Abstract |
今年度の研究は、国立療養所「沖縄・愛楽園」と「沖縄県ハンセン病予防協会」を中心に、さらに国立療養所「多摩・全生園」や同園内にある「ハンセン病資料館」にも足を延ばし、聞き取り調査や資料収集などのフィールドワークを行なった。一連のフィールドワークを通して、ハンセン病に関わる問題の所在の一端がハンセン病経験者の自己と関係世界の解体・再編にあること、そしてそれらの再編の契機ないし過程として、俳句、短歌、琉歌、詩や創作などの文芸活動と信仰が極めて重要な意味をもつことを、確認することができた。とりわけ、沖縄戦での戦場体験や園の壊滅という体験を余儀なくされた「沖縄・愛楽園」において文芸活動と信仰は、入所者の戦場体験によるトラウマからの解放と廃墟からの復興のよすがとなった点には留意すべきであろう。ある入所者の語りによると、敗戦後の愛楽園には、頽廃的な雰囲気が園を支配していたという。こうした頽廃的な雰囲気、あるいは絶望からの回生は、いかにして可能なのか。ハンセン病に罹患したショックと沖縄戦によるショックを克服してきた「沖縄・愛楽園」入所者の自己と生のあり様は、絶望に向き合う人間的生の問題として、より本質的な問題として位置づけることができる。本年度に上梓した二本の論文においては、ハンセン病問題の本質の一端は人間的生の問題にあるとともに、文芸活動と信仰を通した入所者の自己の恢複と関係世界の再構成の同時性という点を指摘した。しかし、その一方で「沖縄・愛楽園」には敗戦後、鹿児島の「星塚・敬愛園」や熊本の「恵楓園」(あるいは台湾の「楽生園」)などから引揚げてきた者が多く、文芸活動と信仰を通して、これら両園の入所者と特別な関係をもつ場合があることが、明らかになってきた。これら本土の療養所での「愛楽園」引揚げ者の足跡と、本土療養所の沖縄出身の入所者の生の軌跡を訪ねるという課題がみえてきた。
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