2000 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半のインドにおける地域アイデンティティとナショナリズム
Project/Area Number |
12710189
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井坂 理穂 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 講師 (70272490)
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Keywords | インド / グジャラート / グジャラーティー / ガンディー / ナショナリズム / 地域主義 / 言語 |
Research Abstract |
今年度は、20世紀前半のインドにおける地域アイデンティティとナショナリズムという観点から、インド西部、グジャラートにおいて刊行された定期刊行物や、この地域で独立運動に関わった人々の回顧録・資料集などを中心に資料収集・分析を行った。 その過程でまず注目したのは、19世紀後半に確立されたグジャラート人意識やグジャラートの誇りといった概念が、20世紀前半にこの地域がインド独立運動に関わる中で繰り返し強調されている点である。特にグジャラートの場合は、インド独立運動で活躍したM・K・ガンディーがこの地域の出身者であったため、独立運動の参加者が「インド」と「グジャラート」を重複してとらえる傾向が強かった。グジャラートに対する誇りの意識や帰属意識と、この地域がガンディーの独立運動において果たした役割との関連については、これまで十分に指摘されてこなかったが、今後さらに検討を進める必要がある。 この点と合わせて分析したのが、ここで主張されたグジャラート人意識が、グジャラート地域内部の多様性を抑制する方向を促したことである。その顕著な例は言語問題に表れている。ガンディーや彼の支持者たちは、全インド・レベルの言語としてのヒンディー語の優位を強調した上で、各地域で一定のヘゲモニーを確立しているグジャラーティー語などの言語については、「州」レベルの共通語として地位を保証した。しかし、その州内部に存在する少数派の言語や「方言」については、これらを州の共通語に置き換える方針を採る。この結果、独立運動以降、グジャラーティー語が地方言語として地位を保持する一方、グジャラート南部のトライブ地域の諸言語は、グジャラーティー語に押される形でその地位を劇的に低下させた。特定の地域アイデンティティの確立が、その内部の多様なアイデンティティに及ぼす影響についても、来年度以降引き続き検討する予定である。
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Research Products
(1 results)