フランス絶対王政期における行政官僚のプロソポグラフィ

2000 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 12710197
• Research Institution: Ochanomizu University
• Principal Investigator: 安成 英樹 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (60239770)
• Keywords: 官僚制 / 地方長官(アンタンダン) / 訴願審査官 / 官職売買制度 / プロソポグラフィ

Research Abstract

本研究は、フランス絶対王政期に高度に発展したとされる官僚制について、プロソポグラフィの手法を用いることでその特質を明らかにするとともに、いわゆる近代的な行政制度がどのように発展していったのかについて考察することを目的としている。
フランスのアンシァン・レジーム期の官僚制度の特徴は、当時の官職のほとんどが一定条件を満たすことで自由に売買・譲渡・世襲しうる売官職であったことにつきる。王権により公認された官職売買制度によって、論理上罷免しえない半独立の官僚群による官職ヒエラルキーが形成され、彼らによって当時の王国行政が担われることとなった。こうした状況を打開し、王権に忠実な直轄行政機構を新たに確立するため、全国に常駐するようになったのが直轄官僚たる地方長官であった。
本研究では、当時の官僚を一群の社会集団として捉え、その経歴や出自、姻戚関係、財産などを計量的に分析することによりその諸様相を解明しようと試みた。こうした手法は、歴史学においてはプロソポグラフィと呼ばれるが、それによって当時の王国行政の要に位置した地方長官およびその選任母胎である訴願審査官について、その昇進の過程や社会的結合のあり方(姻戚関係や保護-被保護関係=パトロン・クライアント関係)について分析を行い、地方長官制が近代官僚制の萌芽ともいうべき性格を帯びていることを解明した。とくに、訴願審査官に関して、従来の官職保有者対直轄官僚という二項対立的な視点では見えてこないような独特の特質、すなわち王国政府内で若くして実務に携わり、国王や有力者との個人的結びつきを背景に、実務能力と経験、忠誠心とでもって立身の途をひた走る一群の官僚集団の相貌が析出されたのである。