2001 Fiscal Year Annual Research Report
中・近世ドイツにおける「名誉」に関する構造的社会史研究
Project/Area Number |
12710200
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
田中 俊之 金沢大学, 文学部, 助教授 (00303248)
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Keywords | 名誉 / 都市社会 / 農村支配 / 調停システム / 仲裁者 |
Research Abstract |
本研究では「名誉」を、中世後期から近世にかけてのドイツ社会を捉える上での重要な価値観と考え、「名誉」をめぐって生じた様々な葛藤・確執を分析することにより、社会の秩序形成と統合のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 1.(1)まず、中世後期の都市におけるツンフトと手工業者の関係において、職人の遍歴慣行が、都市の経済状況に応じて、「名誉」をめぐる様々な葛藤・確執の発生しやすい社会環境を創り出していたことを確認した。(2)紛争解決にむけては、ツンフトによる積極的な仲裁・調停、場合によっては都市参事会の裁判が機能していたこと、またその際、家族や友人など当事者の共属集団の働きかけが一定の役割を果たしたこと、さらにそうした紛争解決の過程を通じて、従来の自力救済の慣習の抑制、都市当局の権限強化などが見られるということが、見通しとして得られた。 2.以上をふまえ、さらに中世後期以降に展開した都市の領域形成という側面においては、農民の「名誉」意識が「農村の都市化政策」を促進したということが認められた。すなわち、(1)例えば上ライン・バーゼルのラントシャフトにおいては、農民に対する領主側からの「名誉」侵害(高級裁判権の執行に際しての農民に対する不名誉な任務の強制、あるいは体僕制導入による農民の人格的自由の剥奪)が、領主・農民間の信頼関係を喪失させ、それを契機に紛争が激化し、中小貴族の所領経営の悪化および都市への所領売却が促進されたと考えられる。(2)領主・農民間の紛争の展開に際して、農民は抗議行動を起こし、周辺都市の仲裁を引き出す一方、周辺都市に市民としての受入れを期待し、都市の側は自らの利害に合致した形で対応しながら、所領獲得にむけて農民を背面援護していたことが認められた。
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