2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12710233
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
杉田 昌彦 静岡大学, 教育学部, 助教授 (50283320)
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Keywords | 本居宣長 / 物のあはれ |
Research Abstract |
三重県松阪市の本居宣長記念館に現存する『源氏物語玉の小櫛』の3種類の宣長自筆稿本とその周辺資料を調査・収集・整理を行い、その調査の結果について、コンピューターによる情報処理を施した。その結果、『源氏物語玉の小櫛』の成立過程と文献学的特徴を一端を明らかにすることができた。その成果は来年度発刊予定の『本居宣長事典』(東京堂出版)などに反映される予定である。また、『紫文要領』『石上私淑言』の中において物語論や歌論として提唱されている「物のあはれを知る」説を、伊藤仁斎・萩生徂徠あるいは武者小路実陰・冷泉為村・小沢蘆庵といった同時代とそれ以前の文学者たちの文芸思想と比較することによって、その来歴を明らかにするとともに、彼の唱えた説が文学史上においてどのような意義を有したのかということについて究明を試みた。その結果、彼の「物のあはれを知る」説が、仁斎らの人情主義的文学観を継承しつつ、「人情」というものの内容を心理学的に精密に解析することによって、儒仏など他の思想的価値に依存しない文学観の完成を目指したものであることや、同じく同説中に窺える他者の心理を洞察することのできる能力・精神性の重視が、小沢蘆庵の歌論をはじめとする同時代の文学観の中に幅広く認められるものであることなどを究明し得た。これらの研究成果は、週刊朝日百科『世界の文学』no.89(平成13年3月27日、朝日新聞社刊)に「もののあはれの文学論」としてまとめた。宣長の『伊勢物語』研究に関する文献や『万葉集』についての講義の聞書の類などについての調査なども行ったが、これらについては、彼の歌学・物語学についてより総合的な探究を試みる、来年度の研究に繋がるものであることを確信する。
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