2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12740016
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
木村 俊一 広島大学, 大学院・理学研究科, 講師 (10284150)
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Keywords | 非可換代数幾何 / 正規化アルゴリズム / グイブナー基底 / 準素分解 / 数概念の革命 / 17世紀イギリス数学 |
Research Abstract |
1.非可換環の準素分解アルゴリズムについて研究を行った。 非可換代数幾何の研究を行うにあたって、「点とは何か」という問題を考える際に可換環における準素イデアルの概念を非可換の場合に拡張する、というのは自然なアプローチであると考えられる。エミー・ネーターによる加群の準素分解定理は、「可換環の場合は点として素イデアルだけを考えれば十分」という表明とも読みとれるからである。これまで非可換環に対して一般に認められた準素イデアルの定義はまだないようなので、まず準素イデアルの定義から始める必要がある。後で具体例を計算しようという目論見があるので、可換環の場合の計算方法を真似て、アルゴリズムをもって定義を行うのが自然なアプローチであると考えた。 可換環の準素分解アルゴリズムで普通に用いられるのは、0次元へのリダクションであるが、これは幾何的直感に基づくものであり、非可換環ではその幾何的直感が働かなくなると考えられるので、これは不適当である。そこでもう一つのアプローチ、Eisenbud,Huneke,Vasconcelosによる環の正規化を用いた方法が面白そうであると考えた。非可換環では正規の概念も存在しないが、次のアプローチであれば真似が可能である。 定理:$R$が可換環、$I$がイデアルで、$R$の非可逆元を少なくとも一つ含み、$V(I)$が$Spec R$の非正規なlocusを含むとする。すると$R\subseteq Hom(I,I)$は整拡大で、しかも等号が成立するための必要十分条件は$R$が整閉であることである。 そこで、$R$が非可換環、$M$が有限生成$R$加群の時に、$Hom(M,M)$を計算するコンピュータープログラムを作成した。諸例の計算を試みたが、極めて簡単な例を除いては計算時間がかかりすぎることが判明したので、今後プログラムの改良作業をさらに進める必要がある。 2.数学史について、次の問題に興味を持った。 ギリシア時代と現代とでは数の概念が異なり、ヴィエトによってその数概念の革命がなされた、というのがこれまでの定説である。ヴィエト以前はアリストテレスの理論に従って、幾何的な量と整数論的な数とは全然別の概念であると見なされていたのが、ヴィエトによって両者を同種として扱って構わない、とする現代的な数概念が生まれた。だが、それは数学を専門的に扱う人だけにしかあてはまらない理論である。ヴィエトなんて聞いたこともない、というような、より一般の人々の間でも数概念の革命が起こっているのは何が原因であったか。 これに対して、小数の使用が一般化したことがその大きな理由としてあげられる、という仮説を考えた。実際、数概念の革命が起こったのは17世紀の初めころであるが、これはちょうどネピアーが対数表を発表して、これによって小数の使用が一般に広がった時期とちょうど一致している。(但し、ヴィエトの著書が世に現れたのもほぼ同時期である。) この仮説に対する証拠として、ウォリスが「代数論」の中で「小数の使用により、量を整数のようにして扱うことが出来る」と述べた一節を発見した。もちろんウォリスはトップレベルの数学者であるが、この教科書は一般向けに代数を説明しようとした書物であり(だからラテン語でなく英語で書かれた)、少なくとも傍証にはなると考えられる。 また、ウォリス、バーロウ、ホッブスの間の論争において、数概念のどこを問題にしたか調べた。以前はウォリスが新しい数概念、バーロウとホッブスが古い数概念を代表する、とするのが定説であったが、キャサリン・ヒルが指摘したように話はそれほど単純ではない。バーロウとホッブスは「動き」によって数をとらえる、という点でウォリスとは別の意味で革新的であった。この二つの革新性がニュートンにおいて統合されたとも言える。この研究成果の一部は、近著「天才達の方程式」(仮題)で発表される予定である。
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