2000 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリアDNAの進化における生殖的隔離と地理的隔離の効果
Project/Area Number |
12740471
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
田村 浩一郎 東京都立大学, 理学研究科, 助手 (00254144)
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Keywords | ミトコンドリアDNA / 分子系統 / 分子進化 / ショウジョウバエ / 地理的隔離 / 種分化 / 遺伝子浸透 / 分子マーカー |
Research Abstract |
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は、分子系統学において、近縁な分類群間の系統関係を研究するために広く用いられている分子マーカーである。しかし、遺伝様式が核ゲノムと異なることから、mtDNA分子の系統関係は種の系統関係を必ずしも反映しない可能性も予想される。事実、異種間浸透により、異所的に分布する同種の集団よりも同所的に分布する他種の集団に近い配列を持つ現象は、種々の動物種で報告されている。そこで、本研究は、種分化に際して生殖的隔離と地理的隔離がmtDNAの分化にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とし、テングショウジョウバエ亜群(Drosophila nasuta subgroup)の11種・亜種、合計132系統について、 mtDNAのCOI遺伝子、675塩基の配列を決定し、分子系統学的解析を行った。 その結果、D.pallidifrons、D.niveifronsを除く9種・亜種のmtDNAは、わずかな例外はあるものの、インド、タイ、中国南部など、主に東南アジアに分布する分類群のクラスターと、ボルネオ、フィリピン、オーストラリア、ニューギニアなど、主に南太平洋の島々に分布する分類群のクラスターに分かれた。同一のクラスターに所属する分類群は必ずしも生物学的に近縁であるとは限らず、逆に近縁であるが分布域の異なる分類群が2つの大きなクラスターに分かれる傾向が観察された。すなわち、テングショウジョウバエ亜群の種分化過程においては、mtDNAの分化は、生殖的隔離の確立による種の分岐より、むしろ分布域の変化に伴う地理的隔離により大きく影響されたと考えられた。以上の結果から、mtDNAを分子マーカーとして、種の系統関係を議論する際の危険性が強く示唆された。
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