Research Abstract |
顎顔面領域の外傷予防を主目的とするマウスガードや顎関節症の治療に用いられているスプリントの装着により,下顎位の安定をはかることは,随意的な咀嚼筋の活動量を増加し,身体各部の他の筋力に多大な影響を及ぼすとの報告は,周知の通り数多く存在する. 研究者もこれまで,背筋力,四肢の筋力のほか,頸部の固定性の向上による傷害予防効果などについて報告してきた. しかし,多くのスポーツでは,筋力よりむしろスピード,反射神経,瞬発力などが重要となり,パフォーマンスの向上,あるいは傷害予防という観点においても,瞬間的な骨格筋の収縮,すなわち身体を素早く反応させるいわゆる「敏捷性」が,選手生命を左右する重要な役割を果たし,スポーツパフォーマンスの向上にもより深く関与するものと考えられる.そこで,スプリントやマウスガード装着による咬合状態の変化が,咀嚼筋収縮反応時間および全身反応時間に及ぼす影響を検討している. 現在までの結果について,咀嚼筋活動開始時間は,スプリント装着時の方がスプリント非装着時と比較して短縮する傾向であった.また,咀嚼筋活動電位が最大咬みしめ時の平均振幅にいたるまでの時間は,スプリント装着時の方がスプリント非装着時と比較して50msec程度の有意な短縮傾向が認められた. 上記の結果は,スプリント装着による咬合挙上により,咬筋のisometricな収縮までの期間が短縮したことと,咬合の安定により咬みしめが容易になることによるものと思われる. 「咬みしめ」による大脳皮質咀嚼運動領への情報量が大きい場合には,身体各部の骨格筋へも興奮が伝達されることが知られており,スプリント装着による瞬発的な咬筋の収縮は,この情報伝達を促進し,「敏捷性」の向上,あるいは傷害予防という観点でも有効であることを示唆するものと思われる.
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