Research Abstract |
本研究では,環境に左右されることなく運動が遂行されるクローズドスキル・スポーツである射撃を課題とし,スキルを精神生理学的に評価し,運動学習おけるストラテジ(方略)を解明することを目的とした.中間報告として,全日本ピストル射撃代表チームに選考選手を対象とし,全日本代表選考会の順位決定戦(ファイナルマッチ)というストレス事態下における覚醒水準や心理的ストレス反応とパフォーマンスの関係を検討した結果を示す. ファイナルマッチでは,呼吸のポーズ時間が普段より短くなる傾向が示された.一方,フォロースルーの時間は長くなっていた.また心電図に関しては,ファイナルマッチにおいて,撃発時点を含むR-R intervalがより長いこと,撃発前のR波から撃発までの時間を示すR-Triggerがより長いこと,さらに,心周期の終盤で撃発の遂行により,高スコアが導びかれていた.射撃照準中のR-R intervalの延長は,心臓洞房結節に対する迷走神経および交感神経支配が概ね拮抗的に作用した結果,迷走神経活動亢進ないし交感神経活動抑制のいずれか一方,または,両方の作用,および,呼吸のポーズによる呼吸性不整脈(RSA)と考えられる.しかし,ファイナルマッチでは呼吸とR-R intervalの関係がむしろ逆傾向を示し,呼吸ポーズ時間が短くともR-R intervalが延長し,しかも高スコアであった.このR-R intervalの延長は,Lacyら(1963)が提唱したintake-rejection hypothesisの立場から,ファイナルマッチという緊張場面で,環境に対する取り込みに一層の注意が注がれた結果であると説明された.(星野聡子,高ストレス試合条件下におけるピストル射撃熟練者の精神生理学的過程,奈良女子大学文学部研究年報,43,137-150,1999(2000年発刊)). これを受けて,ハイパフォーマンスを追求する過程で生理的あるいは行動的ストラテジを競技者に呈示する各種バイオフィードバック法の介入を行い,気づきや認知的行動変容を促す応用研究を発展させる予定である.
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