Research Abstract |
冬季の低温環境などにおいて,高齢者ではしばしば低体温症となる場合が見られる.これは,屋外のみならず室内環境においても確認されている.高齢者の体温調節反応は,若年者と比べて遅延し,そのために深部体温が影響を受けやすい状況となっていることが考えられる.本研究では,高齢者の環境適応能力の向上のための基礎的研究であり,主に身体的トレーニングが環境適応能力に影響を及ぼすかどうかについて調べる事を目的とした. 寒冷暴露実験と運動能力(最大酸素摂取量)の測定を身体的トレーニングの前後で行い,運動能力の向上にともなう寒冷時の体温調節反応の比較を行った. 寒冷暴露実験 若年男性8名(平均年齢21.4歳)を対象とした.室温(10,15,28℃)・相対湿度(約50%)を制御した人工気候室において,実験を行い,実験時の被験者の服装はTシャツとショートパンツのみ(0.3clo)であった.被験者は,28℃の実験室にて60分間の半仰臥位安静後,各温度(10,15,28℃)に制御した実験室へ移動し,半仰臥位安静で90分間の寒冷暴露を行った.直腸温,皮膚温(額,胸,腹,上腕,手背,大腿,下腿,足背),血圧,心電図,血流量,代謝量の項目について連続測定を行い,快適感覚,温度感覚について主観申告を行った. 身体的トレーニング 「ややきつい」と感じる程度の運動(HR:120拍程度)を一日30分以上,週に3日以上行い,これを8週間以上継続した. トレーニング前後での寒冷曝露時の体温調節反応が異なった.それは,直腸温の変化にあらわれ,トレーニング前では90分間の10℃暴露で0.2℃の直腸温の低下が見られたが,トレーニング後では直腸温の低下は見られなかった.これは,身体的トレーニングによる筋量の増加に伴う基礎代謝量の増大と毛細血管網の発達に伴う末梢循環の改善や皮膚血管運動の反応性の改善などによるものと考えられた.
|