Research Abstract |
第一の研究としては,旅行雑誌『旅』の読者旅行文を取り上げ,1960年代から1990年代に至るまでに雰囲気記述に関してどのような変遷があったかを分析した。まず注目すべきは,大きな傾向として,雰囲気の語は年々増加していることである。一方,実際の旅行の語りをテクスト分析した結果,年代による差があることが分かった。すなわち,1960年代の地域の現実感を伴う記述,1970年代の風景描写的な詩的な記述,1980年代の観察と理解を強調する記録な記述,そして1990年代の対比や比較を用いた評価的な記述である。したがって雰囲気の記述が最も多くなされているのは,1970年代ということになる。この背景には,ノスタルジック・ジャパンなどのキャンペーンの影響や,ふるさとづくりなどの社会動向がある。しかし,ここで強調しておくべきことは,雰囲気の語の出現と雰囲気に関する記述とは相関していないことである。これは,雰囲気という語が高度に抽象的であり,言い換えれば,記号的な要素をもっているからだと推定できる。 第二の研究に関しては,ジュネーブのホテルガイドブック及びホテル発行のパンフレットから,雰囲気がどのように扱われているかを分析した。ガイドブックに関しては,雰囲気の項目で評価の高いホテルは,価格やランクの高いいわゆる高級ホテルであることが多い。このことにより,雰囲気という項目は,一つの商品であるかのような様相を呈しつつも,結局はホテルの格を言い換えたに過ぎないものになっている。また雰囲気の記述を,ガイドブック及びパンフレットから分析すると,雰囲気の良さは,多くの場合人の多さとして語られていることが分かった。したがって,良い雰囲気とは人が多いこと,換言すれは人気の高さである。この点でも雰囲気とは,商業的に成功しているか否かを示す指標にほかならないことになる。このように,雰囲気という要素は,何かを意味しているようで,結局は他の指標の言い換えに過ぎないことが分かった。したがって,旅行文の分析同様,記号的な要素が強いことが推定できた。
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