Research Abstract |
高齢化社会では,損傷した器官を人工器具により代替する治療方法が一般的となる。歯科領域では,人工歯根あるいはブリッジ等の硬組織代替器具がある。このような器具には,チタン合金が最も適している。しかし,生体用として開発されたチタン合金は少なく,実用されている生体用チタン合金は生体適合性に問題がある。また,チタン合金は切削加工コストが極めて高く,ニアネットシェイブ加工である鋳造法の適用がその解決策として望まれており,歯科領域でも精密鋳造法が主流となっている。そこで本研究では,力学的生体融合機能性を高めるため,弾性率がより骨に近く,毒性の無い元素からなるβ型チタン合金を電子論により設計する。この点に関しては,既に,申請者らの検討により,Ti-Nb-Ta-Zr,-Snあるいは-Mo系合金が有望であることがわかっている。次いで,設計合金に適した鋳型材および鋳造方案等の開発等と同時に,歯科精密鋳造用に最も適した合金組成の検討を進め,歯科精密鋳造に最適な合金組成をも確立する。さらに,歯科鋳造合金の熱処理プロセスを機械的特性とミクロ組織との検討から確立する。歯科鋳造合金の生体材料としての性能について、大気中および疑似生体内環境での種々の力学的性質,細胞毒性および動物実験により評価し,その実用性を検討することを目的としている。 アルミナ系埋没材を用いて鋳造したTi-Nb-Ta-Zr系鋳造合金および既存の生体用チタン合金であるTi-6Al-4V鋳造合金の伸びは,マグネシア系およびマグネシア系埋没材からシリカ系膨張材を除外し,さらに基材のマグネシアを細粒化し改良を加えた改良型埋没材を用いて鋳造した両鋳造合金のそれに比べ低くなる傾向を示していた。また,改良型埋没材を用いて鋳造した本鋳造材の伸びは,マグネシア系埋没材を用いて鋳造した両鋳造合金のそれより若干低くなる傾向を示した。引張強さおよび0.2%耐力は,各埋没材で若干の相違は確認できるが顕著な違いはないと考えられる。各埋没材を用いて鋳造したTi-Nb-Ta-Zr系鋳造合金の0.2%耐力および引張強さは、Ti-6Al-4V鋳造合金と比較して若干劣っているが,高い伸びを有していた。改良型埋没剤を用いた各鋳造合金の表面反応層は,X線回析の結果より,表面から内部へ約20μmまではTiO_2が形成されており,それより内分の約100〜150μmまではαケースが形成されていることが確認された。このことは、鋳造体表面近傍から多層構造になっていることを示している。また,Ti-6Al-4V鋳造合金の表面反応層,特にαケースはTi-Nb-Ta-Zr系鋳造合金のそれに比べやや厚くなる傾向を示していた。マグネシア系およびアルミナ系の埋没材を使用した場合では,鋳造体表面近傍こSiO_2あるいはAl_2O_3の酸化物層が形成され,それより内部にαケースが形成されており,表面近傍での形成層の違いを除いては改良型埋没材の場合とほぼ同様の傾向を示していた。
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