Research Abstract |
半側空間無視は右半球損傷後に高頻度にみられる高次脳機能障害であり,左側の刺激に対して,発見して報告したり,反応したり,その方向を向いたりすることが障害される病態である.通常の検査や日常生活では,注意と運動を左方向に向けることに困難をきたす.ところが,身体の正面正中の基準点を原点として,右側の点と左右対象な位置に左側の点を定位する「対称点課題」を実施すると,容易に注意と運動を左方へ誘導できる.この課題遂行中の視線と手の動きをアイカメラで記録し,注意と運動の連関ならびに空間の脳内再現(表象)について検討した.半側空間無視患者は,視線を動かして左側の主観的対称点を注視すると,理想的な位置よりも左方に行き過ぎる傾向があった.対称点課題は,右側の点自体に反応するのではなく,対称的な左側の点に交叉性の反応を要求する.そのため,半側空間無視患者であっても,左側の空間表象が賦活され,むしろ左側の距離がより長く再現された可能性がある.手の運動が開始され視線の方向に到達すると,視線と手は協調してさらに左方へ移動した.この時,視線による右方探索は起こらず,さらに左方へ行き過ぎた.すなわち,一度,注意と運動の左向き傾向を喚起すると,両者の過剰な連関によって,健側の不注意ないしは測定障害が生じる結果となった.次年度以降,半側空間無視患者の表象イメージをさらに検討すること,注意と運動の方向を自然な形で解離させ方法を開発することが重要と考えられた.なお,検討に用いる課題を従来のタッチパネルからタブレットに置き換える作業は,当初予定した機種が発売中止となったため,機種を変更して進めている.そのため,ソフトウェアの開発に遅れが生じているが,2月中に完成予定である.タブレットを用いた課題に移行すると,反応に用いる手を画面上に置くことができるので,より自然に近い状況で課題の遂行が可能となる.
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