Research Abstract |
本研究は,共同思考におけるコプレズンス効果を実験的に検討し,その結果を遠隔共同思考の設計に活かすことを目的とする。コプレズンスとは,コミュニケーションに際して,話し手と聞き手が同じ空間の中で,すぐそばにいることを意味する。 昨年度は,物理的コプレズンスを伴う対面状況において自然に発生する,聞き手から話し手へのあいづち行動に着目し,まず,あいづち頻度が話し手の発想に及ぼす効果を実験的に調べた。結果は以下の通りであった。 聞き手があいづちを頻繁に打つことにより,(1)話し手の考える意欲,自分の考えに対する聞き手からの同意,関心,ほめの認知が高まった。(2)思考課題に対する話し手の発想量が増加した。すなわち,高頻度のあいづちは,認知・感情両側面に対して促進効果を持ち,共同思考の基礎となる個人の発想を促すことが明らかになった。 そこで,この結果を受けて,本年度は物理的コプレズンスを伴わない状況におけるあいづちの効果を実験的に調べた。具体的な実験状況は,2台のビデオカメラを用いて,別室からビデオを介して相手とコミュニケーションをとるものであった。すると,(1)については同様の結果を得たものの,(2)については有意な増加が認められなかった。すなわち,ビデオを介した場合には,あいづちによる発想促進効果が生じなかったのである。ここから,聞き手のあいづちが話し手の発想を促すことができるのは,両者のコプレズンスによるもの,すなわち,コプレズンス効果であると考えられる。この効果がどのようなメカニズムで生じるのか,また,遠隔共同思考場面において,物理的コプレズンスの欠如を補い,話し手の発想を促進することは可能か,といった問題を追究する必要がある。
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