Research Abstract |
本課題は, より精緻な語彙処理モデルを構築するために, 次の手順で, 語彙処理モデルの妥当性と検証してきた。まず, 新しい常用漢字表2,136字に合わせた漢字データベースを作成した。これまで朝日新聞14年間(1985年から1998年まで)のコーパスから語彙頻度のデータベースを計算した天野・近藤(1999)を使って計算してきた。しかし, 今回作成したデータベースは, 毎日新聞の2000年から2011年の新しいコーパスを使い, 1つの漢字が漢字二字熟語を作る際のパターンを示すエントリピー, 冗長度および対称性も同時に計算して, 新しい常用漢字表2,136字に合わせた漢字特性を示すデータベースを作って, 世界中から誰でもアクセスできWeb上で検索できるhthttp://www.kanjidatabase.com/を作成した。デーベースについては, 第54回Annual Meeting of the Psychonomic Society (Montreal, Canada)で紹介した。また, 「一対多」の書字から音韻への活性化が起こることを証明した論文を, インパクトファクターが3.730の国際ジャーナルPLoS ONE (2013, Verdonschot, et al.)に掲載した。この論文では, 音読みと訓読みの音韻的表象の活性化が「競合(competition)」を起こすことを証明した。また, 日本語にはピッチアクセントがある。このアクセントが同音異義語の意味的弁別に貢献しているかどうかを脳波実験で検証した。その結果, 同音異義語の弁別には貢献していないことが示された。この論文は, Journal of Neurolinguistics(過去5年間のインパクトファクターの平均は1.724)に掲載した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, (1)漢字データベースに左右の漢字の発音頻度を追加する。漢字二字熟語を基にして, 漢字が左側と右側にくる場合の漢字の発音とその頻度を算出してデータベースに追加する。(2)漢字データベースに, 漢字二字熟語のデータベースを結合させて, 両方のデータベースからの検索を可能にする。(3)日本語の音韻処理の単位についての実験を反応時間ばかりでなく脳波の測定も行う。日本語の音韻処理はモーラであるという主張がある。これについて, 日本語母語話者にプライミングの実験を行い証明する。(4)漢字には, 複数の構成要素を持つ漢字がある。例えば, 「時」であれば, 左に「日」で, 右に「寺」がある。発音の/zi/は右側の「寺」の音読みから分かり, 意味は左側の「日」から分かる。こうした漢字の構成要素が漢字処理に与える影響について検討する。
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