2012 Fiscal Year Annual Research Report
ハンナ・アーレント労働論の批判的検討 -近代的労働の系譜学的研究-
Project/Area Number |
12J00280
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
百木 漠 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | アーレント / マルクス / 労働 / 全体主義 / 活動 / 仕事 / 公共性 / 資本主義 |
Research Abstract |
本研究は、ハンナ・アーレントの思想史研究、とりわけ『全体主義の起源』(1951)から『人間の条件』(1958)に至る間のアーレントの思想形成過程を、彼女の労働論およびマルクス論を手掛かりにして明らかにするものである。膨大な先行研究量にもかかわらず、彼女の二つの主著『全体主義の起源』と『人間の条件』を結ぶ論理についてはいまだ明確な説明が与えられていないといってよい。そこで本研究では、1950年代にアーレントが書き残した草稿集を研究対象として、その論理を明らかにすることを目的としている。これまでアーレントの思想は、主に政治思想史の分野で「活動」論や「公共性」論の観点から研究されてきたが、本研究では敢えて彼女が低く評価した「労働」論に着目することにより、アーレント思想の新たな一面を描き出すことを目指している。アーレントの労働論は、彼女の近代化論や大衆社会論、全体主義論と深い関わりを持つと同時に、『全体主義の起源』と『人間の条件』という彼女の主著を繋ぐミッシング・リンクの一つであり、また西欧社会における「労働思想の系譜学」 を読み解くうえで重要な参照点となる見取り図を提示している、というのがこれまでに本研究が導き出した結論である。また、本研究はアーレントの個人思想研究にとどまるものではなく、最終的に西欧社会における「労働の系譜学」を描き出すことで、現代的労働を考察するための思想的枠組みを提示することを目標としている。雇用の流動化、非正規雇用の増加、ワーキングプア問題など近年の日本社会において問題となっている労働諸問題を長期的・マクロ的な視野から考察するためにも、このような思想的・理論的枠組が必要とされていると言えよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アーレントの労働論およびマルクス批判を手がかりとして、『全体主義の起源』と『人間の条件』を結ぶ論理を明らかにするという当初の研究目標は、昨年夏に学術雑誌『社会思想史研究』へ投稿した論文が査読を通過し、雑誌掲載が決定されたことで、概ね達成されたものと考えている。これに加えて、昨年5月の関西社会学会ではアーレントとマルクスの労働思想比較を用いて、労働の自己実現幻想問題(やりがいの搾取問題)について分析する口頭発表を行った。また、今年3月には『唯物論研究協会年誌』に、アーレントの労働運動論および評議会制度論について考察した論文を投稿するなど、アーレントの労働思想に関する研究は着実に進んでいると言ってよいだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、アーレントの労働思想に関する博士課程中の研究をまとめた博士論文を執筆準備中である。仮タイトルは「労働思想の系譜学序説一アーレントの労働思想を中心に」であり、博士号取得後は単著としての出版を目指したい。そのために、これまで執筆した論文をテーマに沿って再構成するとともに、新たにアーレントの「政治と余暇」の関係性についての研究発表を10月の社会思想史学会で行い、その後その成果を論文にまとめ、人間・環境学研究科紀要の『社会システム研究』へ投稿する予定である。またアーレントの個人思想研究にとどまらず、アーレントの労働思想から明らかにされる「労働思想の系譜学」を叙述する作業にも集中したい。
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Research Products
(3 results)