2012 Fiscal Year Annual Research Report
ニッケル触媒を用いた含硫黄複素環化合物の新規合成法の開発とその応用
Project/Area Number |
12J00362
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井波 輔 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ニッケル / 環化付加反応 / アルキン / チオクロモン |
Research Abstract |
本研究はニッケル触媒を用い、従来は報告例の少なかった含硫黄複素環化合物の簡便な合成法を確立することを目的として行っている。1年目はニッケル触媒を用いたチオイサチンと種々の炭素-炭素不飽和結合との、脱カルボニルを伴った環化付加反応を見出した。例えば、チオイサチンと種々の置換基を持つアルキンをニッケル触媒存在下で反応させると、きわめて高い収率で対応するチオクロモン誘導体が得られることを見出した。チオクロモン骨格は、様々な生理活性を示す化合物群として期待されているが、従来はその効率的な合成法が少なかったこともあり、十分な生物活性が調べられてきたとは言い難い。そのため、今回見出した反応は、チオクロモン骨格をもつ有用な生理活性化合物の発見にきわめて大きな役割を果たすと考えている。また、チオイサチンの反応相手をアルキンにかえて、アレンや1,3-ジエンを用いた場合にも同様の形式の反応が進行し、チオクロマノン誘導体が高収率で得られることも見出した。これらの反応では生成物に不斉炭素が生じるため、種々の不斉配位子を用いて反応の不斉化の検討を行った結果、iPr-Duphosを用いた場合に最高75%eeで対応する生成物を得ることができた。さらに、反応を行う中で、無水チオフタル酸と共役ポリインがニッケルを用いること無く、ホスフィン触媒のみによって環化付加反応を起こし、縮合多環チオフェンが良好な収率で得られることを見出した。本反応は従来の反応とは全く異なる反応機構で進行していると考えられ、非常に新規性に富む反応であるということができる。また、本反応で得られるチオフェン誘導体は、有機太陽電池の素子として期待されている構造を持つため、実用的な面においての応用も期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度ではニッケル触媒を用いたチオクロモン誘導体やチオクロマノン誘導体の簡便な合成法を見出した。これらの反応を用いれば、生理活性物質として期待されながらも簡便な合成法が確立されていなかったチオクロモン骨格を1段階で合成できるようになった。また、ボスフィン触媒による無水チオフタル酸と共役ポリインとの環化付加反応では、有機太陽電池の素子として期待される縮合多環チオフェンが簡便に得ることができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで得られた知見をもとに、さらにニッケル触媒を用いた様々な含硫黄有機化合物の合成法の開発を行うことを計画している。従来は様々な複素環骨格の合成法を中心に反応開発を行ってきたが、環構造にこだわらず鎖状構造を持つ化合物を得る付加反応の開発を考えている。鎖状構造の化合物を合成する場合、ニッケルに対する酸化的付加および脱カルボニルが起こった後の中間体からのニッケルの還元的脱離よりも早く炭素一炭素不飽和結合を挿入させることが重要となる。 そのためには、用いる基質に配位可能部位を導入し脱カルボニル後の中間体を安定化することができれば、還元的脱離よりもはやく炭素一炭素不飽和結合の挿入をおこすことができるのではないかと考えている。
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Research Products
(3 results)