2012 Fiscal Year Annual Research Report
修辞のネットワーク-言語コミュニケーションの創造的領域の研究
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12J00428
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小松原 哲太 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 修辞表現 / 認知的基盤 / 発話行為 / 不発 / ユーモア |
Research Abstract |
研究計画で挙げた、(A)(B)(C)三点の研究目的及び下位項目に関して、昨年度の研究実施状況を記述していく。 (A)修辞的表現の意味を一貫した方法による詳細な記述 修士論文『修辞理解のメカニズムに関する基礎的研究―転義現象の分析を中心に―』にて(A)の予備研究を行った。 [A-1]レトリック研究の網羅的文献調査 同修士論文において、レトリック研究に関する網羅的な文献調査を行い、修辞の一般的認知過程の認知モデルを提案した。 [A-2]イメージ図式による詳細な意味記述 同修士論文では、23種の修辞について概略的なイメージ図式を記述した。より詳細な事例分析として、洒落を中心とした言葉遊び、換喩と提喩、転喩、直喩、限定語反転に関する修辞分析を行い、論文及び研究発表として成果を公開した。 (B)修辞学的分類のスキーマネットワークとしての再構築 [B-1]修辞学的分類における用例の網羅的な観察 同修士論文において、隠喩、直喩、比喩くびき、異義兼用、異義反復、類音語接近、かすり、誇張、緩叙、対比、対義結合、換喩、提喩、転喩、省略、黙説、転換、意味構文、破格くびき、代換、限定語反転、交差呼応、転移修飾に関する用例を文学テクストから収集し、認知言語学の観点から分析を行った。 [B-2]レトリックの「地形図」の描画 同修士論文において、修辞カテゴリーの「地形モデル」を提案し、上記の23の修辞の地形図に相当する分布図を描画した。 (C)言語コミュニケーションにおける修辞的基盤の考察 [C-1]語用論の修辞的分析 発話行為論の立場から、洒落の評価の問題をめぐって、語用論的な駄洒落の条件がどのような特性によって満足されるかに関する分析を行った。また「不発」の概念に着目し、不発を逆手にとってユーモアに変換する修辞表現に関する分析を行った。 [C-2]修辞表現の発話実体の解明 一つの言語形式の多様な用法を観察記述を通して、言語の慣習から逃れようする言語主体の志向性とユーモアの関連性が示唆された。これは、言語主体の心理と、文法構造の相互作用に関わる言語使用の一般的メカニズムに関する研究の足がかりとなるものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三つの研究目的(A)(B)(C)のうち、(A)(B)に関しては進捗がみられた。(C)に関しては課題も多いが、足がかりとなる基礎的な事例分析をいくつか行うことができた。(A)に関しては、網羅的な文献調査を行うことで、修辞学の全体像が得られた。修辞の意味分析に関しては、概観的ではあるが、広く行うことができた。(B)に関しては、認知言語学の立場から、具体から一般へ至る修辞の認知図式のカテゴリーネットワークを示すことができた。(C)に関しては、発話行為論を認知的に捉え直す立場から、直喩や洒落などのいくつかの修辞に関して、事例分析を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
修辞の言語分析において、一番の課題となるのは、言語事例の収集である。修辞は形式が定まっていないことから、現在の技術では、大規模コーパスから検索によって事例を得ることはできないため、一つ一つのデータを文学テキストなどから抜き出す必要がある。目下日本語の事例が中心となっているが、映画の字幕、小説の翻訳などを手がかりとして、英語の事例を多く取り入れていく予定である。 研究目的(C)は、当初の計画より重視される予定である。修辞の対人的効果を扱うためには、文法論と語用論の相互関係に関する考察を行い、具体的な事例分析からボトムアップ的で慎重な一般化を行っていくことが必要となると考えられる。
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Research Products
(4 results)