2012 Fiscal Year Annual Research Report
中枢神経損傷後の神経軸索伸長やシナプス形成におけるチロシン脱リン酸化酵素の役割
Project/Area Number |
12J00543
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田中 貴士 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 脳損傷 / SHP-1 / 皮質脊髄路 / 側枝形成(sprouting) / 運動機能回復 |
Research Abstract |
損傷を受けた耳「枢神経系の回復が困難である要因として、-神経軸索に対する伸長阻害因子の存在に加え、神経軸索自体の伸長能力の欠如が報告されている。本研究では、上記二要因の双方に関与すると考えられるチロシン脱リン酸化酵素(SHP-1)に着目し、SHP-1の機能を抑制することで脳損傷後の皮質脊髄路の再構築が促されるか否か検証した。 まず、健常な野生型マウスの大脳皮質におけるSHP-1の発現を染色により確認したところ、皮質脊髄路を構成する第V層の神経細胞を含む大半の神経細胞でSHP-1の発現が認められた。本研究では、脳損傷後の代償性神経回路の再構成を評価するため、脳損傷後においても無傷である非損傷側の皮質脊髄路に着目した。そこで、非損傷側におけるSHP-1の量的および活性の変化を評価した結果、野生型マウスでは脳損傷後3~7日にSHP-1の発現量や脱リン酸化活性の増加が認められた。これにより、脳損傷後にSHP-1の発現量および活性の増加が代償的神経回路の形成を妨げている可能性が考えられたため、SHP-1ノックアウトマウスや阻害剤を用いた実験を行なった。脳損傷後、非損傷側の大脳皮質運動野に順行性トレーサーであるBDAを注入することで皮質脊髄路を標識し、軸索のsproutingを評価した。標識された皮質脊髄路のsprouting数は、野生型マウスと比較してSHP-1ヘテロ欠損マウスで顕著な増加が認められた。また、SHP阻害剤を非損傷側の大脳皮質へ投与したマウスにおいても、コントロール群と比較して有意なsproutingの増加が認められた。最後に、大脳皮質切除後から4週間にわたり野生型およびSHP-1ヘテロ欠損マウスの前肢運動機能の回復過程を評価した結果、SHP-1ヘテロ欠損マウスにおいて運動機能の回復が有意に認められた。 以上の結果より、SHP-1を抑制することで脳損傷後の代償性神経回路の再構築が促され、運動機能の回復が得られることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究により、チロシン脱リン酸化酵素であるSHP-1を抑制することで脳損傷後の代償性神経回路の再構築が促され、運動機能の回復も向上することが示された。本研究は2013年2月27日にCell Death & Disease誌に受理され、本研究の目的であった、脳損傷後の神経軸索伸長におけるSHP-1の役割を解明することが早期にできたため、研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
中枢神経損傷後の神経軸索伸長におけるチロシン脱リン酸化酵素SHP-1の役割は解明することができたが、SHP-1のシナプス形成における役割については解明できていない。今後は、SHPノックアウトマウスやSHPの阻害剤を用いて、 in vivo,in vitroにおいてシナプス形成の数を検証していく予定である。
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