2012 Fiscal Year Annual Research Report
実践的命題観の実現に向けてー「実在論的ミニマリズム」の観点からー
Project/Area Number |
12J00693
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大川 祐矢 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 言語 / 意味 / 命題 / 可能世界 |
Research Abstract |
本年度は命題がかかわる分野のうち、とりわけ形式意味論にかんする研究と、命題の正体にかんする議論状況の概観を行った。まず、形式意味論にかんする研究であるが、本年度はいわゆる証拠性表現に対する形式的な分析を試みた。今回取り扱ったのは証拠性表現の中でも特に、日本語の証拠推量表現と呼ばれる「ようだ」と「らしい」についてである。日本語の証拠推量表現「ようだ」および「らしい」は、なんらかの節に後続し、その節が表現する命題的内容を、話し手がなんらかの推論を経て得たことを示す表現である。こうした「ようだ」と「らしい」はあらゆるタイプの推論に対して用いることが出来る訳ではなく、基本的にアブダクションと呼ばれる推論を行っている場合のみ、用いることが出来る。このことから、「ようだ」と「らしい」がなんらかの説明マーカーのようなものであると考え、クラッツァーのモーダル表現に対する形式的枠組みに、ガーデンフォースの説明モデルを応用する形で分析を行った。こうした分析を経て明らかとなったのは、「ようだ」と「らしい」がそれが後続する節の命題的内容があくまで仮説的なものであり、話し手にとってそうした情報が、観察された新規の情報の主観的確率を増加させるものに過ぎないという点である。ところで、こうした形式意味論の枠組みでは、命題は可能世界の集合として定義されている。しかし、こうした定義は同一性に対しあまりに粗すぎる基準を与えることになり、いくつかの言語現象を捉えることが出来ないという議論がしばしばなされている。そうした論者は代替案として、命題がそれ単独で構造を持つという立場を提案している。今年度はこうした二つの立場の比較を行うとともに、後者が前者が持ちえなかった問題を孕むことを指摘し、前者の改定案を提案することで、前者を擁護する議論を行った。これにより、後者の構造説が必ずしも手放しで受け入れられる立場では無いことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究において、命題が実際にどのように使用されているかという点についてかなり理解を深めることが出来た。しかしその研究はあくまで言語学的な領域に留まるものであり、大きな哲学的な含意を引き出すにはいたっていない。また、命題の正体にかんする二つの立場を概観することは出来たものの、オリジナルな強い主張を行うことが出来ていない。そのため、順調ではあるものの、いくつかの不足点が見られることから、(2)という評価を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は命題が関係する具体的なトピックについて,より哲学的な議論を行うことを目指す。今後特に扱おうとしているのは命題的態度についてである。命題的態度に関する既存の研究は、意味論的な分析においては上手くいっているものの、哲学的にはいくつかの問題があることが知られている。既存の分析が、ラッセルの関係説に大きく依拠していることを鑑みるに、今一度そうした枠組みそれ自体について再考する必要があるだろう。現段階では、そうした立場にかんする最初期の反論として、ウィトゲンシュタインが『論考』で提示した反論を再考する予定である。
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