Research Abstract |
高い拡張性,適応性,耐故障性を有する自己組織型ネットワーク制御の研究において,生物の数理モデルを応用した制御技術が数多く提案されているが,その多くにおいて,生物数理モデルの最適性,安定性などが検証されておらず,また,パラメータ設定の根拠や制御の適用範囲が曖昧である.そこで,平成24年度の研究では,社会性昆虫の自己組織的な役割分担の数理モデルである反応閾値モデルを対象として,ネットワーク制御の観点から生物数理モデルを数学的に分析し,環境,制御パラメータが収束性や安定性に与える影響を分析した.具体的な成果は以下の通りである. (1)反応閾値モデルは生物モデルであるため,メッセージ欠損やノード故障に相当する摂動を考慮していない.そこで,これらの摂動の影響を考慮した分析モデルを作成した. (2)反応閾値モデルを用いたネットワーク制御が適切に動作するために満たされるべき環境および制御パラメータの条件を導出するために,解析モデルが平衡点を有するための条件を求めた. (3)環境,制御パラメータが,反応閾値モデルを用いたネットワーク制御の過渡的な特性に与える影響を分析するために,作成した解析モデルを安定性解析し,ダイナミクスが振動成分を有する条件,つまり,分析モデルの状態遷移行列の固有値が複素数になるパラメータ領域を求めた.その結果,メッセージの欠損率が高い劣悪な環境ほど,ダイナミクスは振動しにくくなることが分かった. (4)ノード故障からの回復時間を定式化し,環境パラメータとの関係を求めた.その結果,メッセージ欠損率が高いほど,回復時間は長くなる傾向は見られる.しかし,その度合いは軽微であり,メッセージ欠損率は回復時間に大きな影響を与えないことが分かった.さらに,制御パラメータと回復時間の関係を求めた.その結果,仕事を始める閾値は回復時間に影響を与えにくいパラメータだが,仕事を止める確率が高いと,回復時間は短くなることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
社会性昆虫に見られる役割分担の挙動の数理モデル「Respond Thresholdモデル」をネットワーク制御の観点から分析することに取り組み,ネットワーク制御への反応閾値モデルの適用可能領域を分析し,さらに,パラメータを設定する際の方針を理論的に体系化した.理論的な分析に関しては,平成25年度に着手する予定であった課題であり,当初の計画以上に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究で取り組んだ特性分析は,系の平均的な振舞については十分に議論できるものであった.しかしながら,確率的な振る舞いに由来する特性,例えば,得られる性能の最良値や最悪値,また,ばらつき等については,十分に分析し,議論することはできなかった.そのため,平成25年度の研究では,確率的なシステムの挙動の分析についての理解を深めつつ,既存の知見を効果的に活用し,研究を遂行する予定である.
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