Research Abstract |
今年度は,2つの研究テーマを設定し,それらのテーマを中心に研究を実施した. まず,1つ目のテーマは「有明海におけるタイラギの資源回復に向けた底質環境改善の地点の算定」である.本テーマでは,有明海におけるタイラギ資源の回復に向けた効率的な底質環境改善の地点の算定を行った.解析に向けて2次元単層モデルにEuler-Lagrange法を導入した浮遊幼生の挙動追跡が可能なモデルを構築した.そして14地点の浮遊幼生の出発地点を設定し,浮遊幼生の着底場予測を行い,有明海における生息可能領域への着底数を算定した.その結果,福岡県側の地点を出発した浮遊幼生が生息可能領域に多く分布し,また,諌早湾の領域には多くの浮遊幼生が最終的に到達していることが示された.そのため,福岡県側および諌早湾の領域において底質環境の改善を行なった際に,有明海におけるタイラギ資源の回復は見込め,効率的な底質環境改善であると推察された. そして,2つ目のテーマは「有明海における中長期的な栄養塩動態の把握に向けたマルチボックス生態系モデルの開発」である.本研究課題の最終目的である3次元流動生態系モデルの構築を行うためには,その複雑なパラメータの調整が重要である.そこで,本研究では,計算時間が短くパラメータ調整が容易となるマルチボックス生態系モデルの開発を行い,3次元流動・生態系モデルの構築に必要となる知見を得ることを目的とした.まず,有明海を12個のボックスに分割し,それらの分割したボックスを単位とした生態系モデルの構築を行った.この結果,マルチボックス生態系モデルにより,海域ごとの特徴や,季節的特徴を再現することができた.現在,このモデルに遺伝的アルゴリズムを適用することにより,各種パラメータ調整を行っている.また,有明海におけるデータの収集も行っており,モデルの再現性の向上を目指している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,有明海を対象とし,海域の水環境保全と持続的な漁業生産の両立を目指している.本年度ではまず,「有明海におけるタイラギの資源回復に向けた底質環境改善の地点の算定」というテーマを研究を実施し,福岡県側および諌早湾の領域において底質環境の改善を行うことでタイラギ資源の回復が期待できることを提言した.次に,「有明海における中長期的な栄養塩動態の把握に向けたマルチボックス生態系モデルの開発」というテーマについて研究を実施し,本研究の最終目的である3次元流動・生態系モデルのプロトタイプとなるものを構築した.以上のように,本研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では,まず有明海における3次元的な流動の把握を行うため,3次元流動モデルの構築を行う.鉛直の座標系には,沿岸域の再現性が高いσ座標系を用いる.そして,初年度に構築したマルチボックス生態系モデルを基に3次元流動・生態系モデルの構築を行う.その際,GIS-based流域負荷流出モデルによる高精度な河川負荷流入データを入力値とし,また計算項目は,植物プランクトン・底泥・ノリ養殖業等の複雑な栄養塩挙動を考慮に入れる.
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