2012 Fiscal Year Annual Research Report
弦の場の理論の幾何学的構造の解明とそれを用いた真空の分類およびダイナミクスの解析
Project/Area Number |
12J01601
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小路田 俊子 京都大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 弦の場の理論 / 多重ブレイン解 |
Research Abstract |
ボゾニックな開弦の場の理論であるCubic String FieldTheory(以下CSFT)において、複数枚のDブレインが広がっている背景を表す古典解、「多重ブレイン解」の探索を行っている。本研究ではCSFTの作用が、三次元多様体上のゲージ理論であるChern-Simons理論(CS理論)の作用に非常によく似た構造を持っていることに注目し、CS理論で得られている知見がCSFTにも成立しているのではないかと予想し研究を行っている。特に注目する点は、CS理論がトポロジカルな理論であり、Winding数という整数が解を特徴づけているという点である。CSFTにおいて近年よく研究されているK,B,cというある代数を満たす三つの量で書かれたpure-gauge型の解のエネルギーが、CS理論におけるWinding数に対応しているため、両理論の類似性を信じると、pure-gauge型の解のエネルギーは整数で量子化されていると期待できる。この整数がブレインの枚数を与えるのである。 実際に、現在知られているタキオン凝縮解は、トポロジカルな量であることが分かった。ヴィラソロ代数の一種であるK演算子の固有値空間上の特異点の構造だけが、エネルギーや運動方程式を決定しているという意味でトポロジカルな量となっている。Kの固有値空間の特異点構造を様々に調節することで多重ブレイン解の構成が可能となることが理解された。 また一般の相関関数に対して、Kの固有値空間の原点と無限遠を入れ替える対称性が存在するという証明に成功した(Inversion symmetry)。CSFTにおいてKの固有値空間の原点と無限遠は本質的に等価であるということである。 この構造が重力結合のエネルギーについては破れていることが知られていた。つまり本研究で構成した多重ブレイン解では、正準エネルギーと重力エネルギーが等しくないことになる。しかしarXiv:1208.6206[hep-th]によって、任意の解に対して正準エネルギーと重力結合が等しいことが導かれた。この矛盾はarXiv:1208.6206[hep-th]の証明を、解に対して具体的に評価することで解決された。従来考えられていた重力結合は拡張する必要があり、拡張された重力結合においてはInversion symmetryが自明に成り立つことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヴィラソロ代数の一種であるK演算子を1/Kに入れ替えても、任意の幅を持つ相関が不変であるという"Inversion symmetry"が成り立っていることが見つけた。この定理の述べるところは、当初問題にしていたエネルギーだけでなく、KBc代数で書かれたCSFTではKの固有値空間の原点と無限遠が本質的に等価であるということである。この対称性に着目することで多重ブレイン解の構成も見通しの良いものとなり、また多重ブレイン解の重力結合についても新たな発見ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにトボロジカルな観点から、任意の枚数のブレインのエネルギーを再現する解を構成することに成功した。 そこで次になすべきことは、この古典解の回りの揺らぎをしらべ、実際にブレインに引っ付いた弦の自由度を再現するのかどうかを調べなければいけない。古典解の探索は古典解が示す物理を理解してこそ完結する。そのアプローチとして、古典解上のBRST電荷を調べるという素直な方法のほかに、摂動論的真空の物理的モードを多重ブレイン解上へ写像できないかと考えている。この写像にブレインの枚数に依存した縮退が生ずるのではないかと考えている。多重ブレイン解まわりのフォック状態が分かれば、CSFTにおける運動方程式はどの方向の変分に対して成り立つべきであるか、という問題にとっても大きな前進となる。
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