2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J01742
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上田 克 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 物性理論 / 強相関電子系 / 界面、表面 / 磁性 / モット絶縁体 / トポロジカル絶縁体 |
Research Abstract |
電子相関効果の研究における新たな切り口として、強相関電子系を用いたヘテロ接合の研究が注目を集めている。 これら強相関ヘテロ接合では、バルクでは実現しないような電子相の競合を引き起こすことができるため、その界面では新奇な量子相の出現が期待される。この点を明確にすべく、本研究では次の2つの解析を行った。 1)バンド絶縁体/モット絶縁体ヘテロ接合における界面磁性 遷移金属酸化物のヘテロ接合では、その界面において磁性や超伝導、さらにそれらの混合状態を示すことが実験的に報告されている。本研究では、SrTiO3/LaTiO3に代表されるモット絶縁体とバンド絶縁体からなるヘテロ接合を対象にし、その界面電子状態を系の非一様性と電子相関効果との競合という観点から理解することを目的とした。平均場近似による解析の結果、電子相関効果と系の非一様性との競合によって、ヘテロ接合の界面ではキャント磁性相が実現することが分かった。さらに、長距離クーロン相互作用がある程度大きくなると、層間の磁気的な相互作用が発達し、ヘテロ界面ではチェッカーボード型の電荷秩序相が出現することが分かった。本研究では、磁場下での振る舞いについても解析を行った。その結果、界面の磁化曲線にメタ磁性的な振る舞いがみられることや、電荷秩序相のリエントラント相転移が生じることを確認した。これらの解析結果は、ヘテロ接合の界面においてスピンと電荷自由度が強くカップルしていることを示唆しており、強相関ヘテロ接合における特有な性質であると考えられる。 2)トポロジカル絶縁体/モット絶縁体接合にける界面電子状態 トポロジカル絶縁体を用いたヘテロ接合の研究は多岐にわたる広がりを見せており、マヨラナフェルミオンや異常磁気抵抗効果など、多彩な物理現象の舞台として広く注目を集めている。本研究の目的は、トポロジカル絶縁体と強相関電子系から成るヘテロ接合を考え、電子相関効果がエッジ状態に及ぼす影響を理論的に明らかにすることである。解析では、トポロジカル絶縁体とモット絶縁体の理論模型として拡張Bernevig-Huges-Zhang模型と2バンドババード模型を用いた。動的平均場近似による解析の結果、トポロジカル絶縁体のエッジ状態はモット絶縁体側へと侵入し、ハバードギャップ中に重い電子的なミッドギャップ状態を誘起することを見出した。加えて、この状態はヘリカルなエネルギー分散を示し、エッジ状態の特徴を強く引き継いでいることを明らかにした。本研究では、こうした重い電子状態の出現は、エッジ状態と強相関効果の絡み合いによって理解できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
強相関ヘテロ接合系における電子相関効果についての理解を得るべく、モット絶縁体/バンド絶縁体接合を対象に、電子のスピン自由度と電荷自由度との競合・協力を切り口にした解析を行った。加えて、近年のトポロジカル絶縁体研究における急速な進展を受け、トポロジカル絶縁体/モット絶縁体接合についての理論解析も展開した。これらの研究成果は、Phys.Rev.B誌、Journal of Physics : Conference Series誌、およびJ.Phys.Soc.JPn誌に掲載されており、豊富な研究成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度までの研究によって、強相関ヘテロ接合系界面における電子の電荷・スピン自由度の絡み合いの効果を明らかにした。その一方で、Mn酸化物やTi酸化物に基礎をおいた強相関ヘテロ接合系では、電子の軌道自由度が系の電子相図や輸送特性に大きく影響を及ぼすことが指摘されている。髪こで、これまでの理論研究を発展させることによって、軌道自由度まで考慮に入れた、強相関ヘテロ接合の一般的な理論モデルを用いた解析を行う。特に、軌道自由度に起因した界面電子状態の可能性について系統的な理解を目指す。加えて、強相関ヘテロ接合における有限温度の効果や、ラシュバ効果の影響に着目した解析も並行して行う予定である。
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