2013 Fiscal Year Annual Research Report
睡眠時無呼吸症候群による心不全及び心筋梗塞における細胞死の分子機構に関する研究
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12J02221
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奈良 明奈 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(PD) (50722576)
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Keywords | 睡眠時無呼吸症候群 / 間歇的低酸素 / 加齢 / 肺高血圧症 / アルギナーゼ / 一酸化窒素 |
Research Abstract |
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome : SAS)は、睡眠中の無呼吸或いは低呼吸が原因で低酸素血症となることで肺血管が収縮し、心臓から肺に血液を送る肺動脈の圧が上昇する肺高血圧となる。日本人におけるSASの罹患率は数%と推定されており、そのうちの大半を中高年以上の男性が占めている。 本研究では、申請先研究室によって開発された間歇的低酸素(Intermittent Hypoxia : IH)発生装置を利用することでSASの病態モデルを再現し、2ヶ月齢及び9ヶ月齢ラットを用い、4週間曝露後の加齢による心肺循環機能の影響について検討した。 その結果、9ヶ月齢ではIH曝露により一酸化窒素(NO)合成低下による肺血管内皮細胞機能障害による肺高血圧症を発症し、2ヶ月齢ではIH曝露による肺血管機能が維持されていたことより、IH曝露による肺高血圧症の発症は、加齢に伴うNO合成抑制による肺血管内皮細胞機能の低下が考えられた。血管内皮細胞機能低下の一因に、血管内皮細胞内Arginase活性上昇に伴うNO合成低下が知られており、Arginaseは、加齢に伴いその活性が上昇することが知られている。そこで肺内Arginase活性について検討を行った結果、2ヶ月齢で、Arginase活性は対照群及びIH曝露群では有意な変化は認められなかったが、9ヶ月齢ではIH曝露群においてArginase活性の顕著な上昇が認められた。更に、9ヶ月齢ラットを用いてArginaseの選択的阻害剤をIH曝露期間中4週間投与したところ、肺高血圧症の発症抑制及びNO産生量の回復が認められた。 以上より、2ヶ月齢及び9ヶ月齢のラットを用いたIH曝露では、加齢に伴い肺血管内皮細胞内でのArginase活性及び発現上昇がNO産生を低下させ、肺血管内皮細胞機能低下による肺高血圧症の発症を導いたことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の研究計画では、IH曝露モデルにおける心不全や虚血性心疾患の病態へ寄与するか否かを心筋細胞内分子機構について心機能を重点的に検討することを主目的としていたが、心機能のみならず肺循環機能についても検討を行うことで、包括的にSASの病態解明を目指すこととした。その結果、生理学的及び分子細胞学的データを得ることが出来、成果を年度内に投稿するに至った(「American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine」に投稿、現在査読中)。しかしながら、まだ肺高血圧症と加齢との関連について未解明の部分が残されており、来年度の課題とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の結果より、加齢に伴う肺血管内皮細胞内Arginase活性及び発現上昇が、NO合成の低下による肺血管内皮細胞機能低下を導き、最終的に肺高血圧症を発症することがわかった。Arginaseの発現量と活性度は年齢の影響を受けることが知られており、本研究の結果でも有意差こそないものの、9ヶ月齢及び2ヶ月齢ラットの対照群同士で比較すると、9ヶ月齢の方がArginaseの発現量、活性度はやや高めの傾向があった。従来の見解では、Arginaseの活性化は専らリモデリング対する役割で知られているが、本研究ではリモデリング以外に肺血管過収縮の影響も肺高血圧症に寄与していると考えられるため、今後はIHモデルでのArginaseの過収縮に対する影響を検討する必要がある。
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