2012 Fiscal Year Annual Research Report
八世紀インドにおける哲学者たちの知的交渉-『摂真実論』開経偈の原典研究-
Project/Area Number |
12J02334
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松岡 寛子 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 『摂真実論』 / シャーンタラクシタ / カマラシーラ / シャーストラ・アーランバ / ジャイナ・ジュニャーナ・バンダーラ / 貝葉写本 / 一切知者 / 極微 |
Research Abstract |
本年度は、仏教論理学派の展開期を代表する中観派の思想家であるカマラシーラ(8C)がそれぞれ著した、『摂真実論』とその『注釈』における序説の梵文語・チベット語批判的校訂テクストとその訳注からなる基礎研究に着手した。論書の冒頭に置かれる《論書の序説》(シャーストラ・アーランバ)はその論書の目的等を簡潔に示している点で重要であり、その類型から、同時代の仏教論理学派の論師らの交渉関係を知るうえで貴重な資料となる。その思想研究については本年度と来年度にかけて公表していくが、昨年度その準備として、貝葉写本等の資料の整備、及び彼の師であるシャーンタラクシタの重要な思想に焦点を当てた、以下の研究成果を公表した。 1.報告者は2009年西インドのパタン、2012年にジャイサルメールにおいて、ともにジャイナ教寺院に併設された書庫(ジャイナ・ジュニャーナ・バンダーラ)に所蔵される『摂真実論』の写本の写真撮影を実施している。 その撮影経緯や書庫の実地調査報告をとりまとめるとともに、全梵文写本とチベット語訳の写本系統を検討した。[学会発表(1)] 2.シャーンタラクシタの外界実在論批判の梗概を示し、その議論が存在論的、認識論的な二側面からなされていることを明らかにした。2013年度の公刊が予定されるProceedingsに採録決定済みのものとして受理されている。[雑誌論文(2)] 3.2に扱った外界実在論批判のうち、仏教内部の実在論者であるシュバグプタとシャーンタラクシタの極微に関する対論に焦点を当てその議論を精査した。[学会発表(2),雑誌論文(2)] 5.シャーンタラクシタの一切知者観が中観派独自のものであるとする従来の説を批判し、唯識説に立脚したものであることを明らかにした。2013年度に公刊が予定される学会誌に採録決定済みのものとして受理されている。[雑誌論文(3)]
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
船山徹教授とヘルムートeクラッサー教授との研究会、及び『『摂真実論』序説の原典研究』(仮)の出版化に向けた協議は、クラッサー教授の体調不良による来日とりやめにより実現しなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
11に記したとおり、初年度に計画していた三者による研究会と協議は実現しなかったが、船山教授との個別の研究会は定期的に継続しており、クラッサー教授が所長を務めるオーストリア科学アカデミ7アジア文化・思想史研究所(IKGA)には本年度からの受け入れが決定している。個別的な研究会と協議を重ね、連絡を密にすることによって、研究に支障はない。したがって、次年度、最終年度の研究計画上の変更は特にない。
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Research Products
(5 results)