2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヒグマとサケを指標とした、海洋-陸域生態系間ネットワークの評価手法に関する研究
Project/Area Number |
12J02469
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松林 順 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ヒグマ / サケ / 安定同位体 / 生態系間相互作用 / GIS / モデリング |
Research Abstract |
平成24年度は当初の計画通り、研究に必要なデータ収集を実施した。6月に北海道環境科学研究センターに赴いて、新たなヒグマの骨試料78点を入手し、この骨試料からのコラーゲン抽出実験および炭素・窒素安定同位体比の測定を行った。10月から12月にかけて知床半島での現地調査を行い、これまで当該地域内で捕獲された全てのヒグマの詳細な捕獲地点データと、新たなヒグマの体毛試料および骨片試料を合計で56サンプル入手した。これによって研究に使用できるヒグマのデータは、これまでに分析済みのものを含めて216点にのぼり、今後の解析に耐えうる十分なサンプル数を入手できたことは間違いないだろう。 調査終了後には、これまでの炭素・窒素同位体分析に加えてイオウの同位体データを加えるため、総合地球環境学研究所でイオウ同位体分析の手法確立を試みた。陸域と海域で大きく異なる値を示すイオウ同位体の結果を加えることで、各ヒグマのサケ利用割合の推定精度が大幅に改善されると考えられる。 さらに、知床での調査で入手したヒグマの捕獲地点データをGISに取り込み、今後の解析に向けた準備作業を行った。GIS上で各個体の捕獲地点をプロットし、窒素安定同位体比値を色の濃淡で重みづけして表示した所、開発や河川改修がほとんど行われていない半島先端部で捕獲されたヒグマは高い窒素同位体比値を示す個体が多いのに対して、半島基部で捕獲された個体はほとんどが低い値を示した。ヒグマの食物資源のうちサケが最も高い窒素安定同位体比値を示すため、サケを多く利用した個体ほど高い窒素安定同位体比値を示す。 この結果は、ヒグマによるサケ利用の程度は各個体の生息地の環境によって制限される、という本研究の仮設を強く支持するものであり、今後各個体の捕獲地点周辺の環境とサケ利用割合の関係を解析することで、なぜヒグマがサケを利用しなくなったのかを明らかにできると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に行った調査によって、本研究課題を遂行するために必要なサンプルを収集することができたため。また、サンプル収集後の実験やGISを用いたデータの整理もほぼ終了しており、残るはデータ解析作業のみとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今回の調査で入手した体毛及び骨試料の前処理及び、炭素・窒素安定同位体分析を行い、新たにイオウ同位体のデータも加えて、Bayesian Mixing Modelにより各個体のサケ利用割合を推定する。 その後、GISの距離計算メソッドを用いて各個体の捕獲地点からサケを捕食可能な河川までの最短ルートを計算する。その際、森林や農地、道路などの土地利用に重みを付けを行うコスト距離を採用し、ヒグマは最もコストが小さくなるルートを選択することとする。その後、各個体のサケ利用割合を目的変数、各個体の捕獲地点からサケ利用可能地点までのコスト距離を説明変数とした階層ベイズモデルを構築し、各土地利用にかかるコストの最適値をマルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて推定する。これによって各土地利用がヒグマのサケ利用に対してどのように影響するかを推定できる。
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