2013 Fiscal Year Annual Research Report
サル一次視覚野におけるアセチルコリンの機能的役割の解明
Project/Area Number |
12J02908
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
相馬 祥吾 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 一次視覚野 / アセチルコリン / ゲイン調節 / 微小イオン泳動法 / 浸潤投与法 / 視覚刺激検出能 / 塩酸ドネペジル |
Research Abstract |
高齢化社会が加速する近年、認知症患者の急増は大きな社会問題となっている。レビー小体型認知症の特徴として物体・空間認識障害、幻覚などの視覚認知障害があり、アセチルコリン(ACh)分解酵素の阻害薬である塩酸ドネペジルの投与により、これらの症状が劇的に改善することが報告されているが、AChが視覚皮質での視覚情報処理に果たす役割は未解明のままである。 先行研究にて、AChが麻酔下のサル(Soma et al., 2012)、およびラット(Soma et al., 2013a)の一次視覚野(V1)において反応ゲインを調節していることを見出しが、覚醒動物においてAChによる反応ゲイン調節がどのような視知覚を引き起こすのかは分かっていない。 本研究では、まず、V1におけるAChの影響範囲をより実際に近い状態に近づけるため、浸潤投与法によるAChの影響を検討した。AChを浸潤投与法によりV1の広域に作用させた場合も、イオン泳動法による局所投与の場合と同じように(Soma et al., 2012 ; 2013a)、反応ゲイン調節が観察され、さらに、浸潤投与法では機能分化したV1の6層構造において異なる修飾効果も観察され、高次視覚野へ信号を出力する2/3層では無駄な神経活動を抑え、視覚刺激の位相情報だけを出力していることを確認した(Soma et al., 2013b)。この結果は、AChがV1に作用することにより視覚刺激の検出能を高めることを示唆している。そこで、ラットに視覚刺激検出課題を実施するためのシステムを構築し、この仮説を検証した。塩酸ドネペジルの腹腔内投与によりラットの脳内ACh濃度を上昇させたところ、コントラスト感度は検出課題の難易度に依存して改善されることを見出した(Soma et al., 2013c)。今後、正常な動物のコントラスト感度の変化とAChの神経活動の修飾効果との因果関係を調べることで、認知症患者における視覚障害改善の手掛かりを得られると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
麻酔下ラットのV1におけるAChの修飾効果を詳細に検討し、AChがV1に作用することにより視覚刺激の検出能を高めることを示唆する結果を得た。さらに、この点を検証するため、覚醒ラット検討したところ、脳内ACh濃度を上昇することで、コントラスト感度は検出課題の難易度に依存して改善されることを見出した。これら一連の研究成果は、V1におけるAChの機能を明らかにした点において井上科学振興財団に高く評価された。
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Strategy for Future Research Activity |
麻酔下動物におけるAChの修飾効果、ならびに、覚醒動物におけるAChのコントラスト検出能改善効果を確認できている。今後は、覚醒動物において電気生理学的手法と行動解析を同時に実施することで、AChが実際に、麻酔下動物の研究か推定された神経メカニズムでコントラスト検出能を改善しているのか明らかにする。その後、推定された行動と神経メカニズムの相関関係の成否を明らかにするために、神経薬理学的手法や光遺伝学的手法を用いて因果関係を検討する。このような研究成果は学術的に重要であるだけではなく、認知症患者における視覚障害改善の手掛かりを得られると考えられ、臨床研究に応用できる重要な情報をもたらすと期待でいる。
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Research Products
(8 results)