2012 Fiscal Year Annual Research Report
多因子疾患が存在する理由の人類進化学的考察:環境適応と拡散に伴う疾患アレルの蓄積
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12J03234
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Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
中込 滋樹 統計数理研究所, リスク解析戦略研究センター, 特別研究員(PD)
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Keywords | クローン病 / ベイズ推論 / Kernel-ABC / TNFSF15 |
Research Abstract |
現代における環境や生活様式は急速に変化してきた。そのため、かつては環境に対して有利であった遺伝的変異(アレル)でも、現代の環境では有害に作用し、疾患を引き起こしている可能性がある。本研究では、多因子疾患の1つである「クローン病」に着目し、「日本人においてクローン病が生じた理由」を明らかにすることを目指している。そこで、本年度は以下2つの研究を行った。 1.自然選択及び人口動態の歴史を推定するための統計学的方法の開発 DNA配列のデータからパラメーター(例:集団の大きさや集団の分岐時期)を推定する方法として、「kernel approximate Bayesian computation(カーネル近似ベイズ計算法;kernel-ABC)」を開発した。ABCとは、尤度関数を明示的に得ることが難しい複雑なモデルにおいて、ベイズ推論の枠組みで近似的にパラメーターの事後推定値を計算するための方法である。本研究では、カーネル法をABCに適用し、全ゲノム-塩基多型(SNPs)データ及び配列データを用いて「日本人集団の人口動態」及び「野生哺乳動物の歴史」を推定することにより、実際のデータ解析におけるkernel-ABCの有効性を検証した。 2.日本人におけるクローン病原因遺伝子の同定 琉球諸島日本人と北部九州日本人におけるクローン病患者及び健常者のDNA試料を用いて、これまで本州日本人においてクローン病との関連性が報告されているTNFSF15遺伝子座について疾患との関連性を調べた。その結果、同じ日本人集団でも、琉球諸島と北部九州の地域によってTNFSF15の発症リスクが異なることが示された。また、どちらの集団においてもクローン病に関係するアレルが高い頻度で存在することから、TNFF15における発症リスクは現代の環境によって決まっていることが新たに示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、「日本人においてクローン病アレルが拡がった歴史」を明らかにする上で必要な統計学的方法を開発し、そして解析対象とするクローン病原因候補遺伝子を絞り込むことに成功したことから、上記の評価とする。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、日本人における新たなクローン病原因候補遺伝子を同定するとともに、kernel-ABCにより日本人集団の人口動態を推定することにより、日本人におけるクローン病アレルが「移動」あるいは「自然選択」のどちらによって拡がったのかを検証する。それにより、「日本人においてクローン病が生じた理由」を明らかにする。
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Research Products
(8 results)