2012 Fiscal Year Annual Research Report
計算機シミュレーションによるアロステリック相互作用の分子内伝達メカニズムの解明
Project/Area Number |
12J03449
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
栗崎 以久男 名古屋大学, 情報科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | アロステリック相互作用 / 分子動力学シミュレーション / 分子認識 / RNA結合タンパク質 / スプライシング因子 / 血液凝固 / セリンプロテアーゼ / 構造変化 |
Research Abstract |
研究目的 細胞内におけるタンパク質機能発現の制御に関わる、アロステリック相互作用の分子内伝達メカニズム解明を行う。 研究実施計画 アロステリック相互作用により、(1)大規模構造変化を起こさない"トロンビン系"と、(2)大規模構造変化を起こす"U1A系"についてそれぞれ研究を遂行した。(1)について:トロンビンはアロステリック相互作用により構造揺らぎが変化することが知られている。構造揺らぎに注目してトロンビン分子中でアロステリック相互作用が働く部分を特定する。(2)について:U1Aはアロステリック相互作用により大規模構造変化を起こすことが示唆されている。アロステリック相互作用と構造変化の関係を検証する。 具体的内容(1)について:トロンビンにアロステリック分子が結合していない状態で、150ナノ秒のMDシミュレーションを20本行った。14本のMDトラジェクトリーで、アロステリック分子がトロンビンに結合した。アロステリック分子が結合する前後のトロンビンの構造アンサンブルを比較して、アロステリック相互作用の働きが影響する残基を特定した。(2)について:構造変化が起こるMDトラジェクトリーに対して、アロステリック分子の影響を調べた。アロステリック分子は構造変化とは無関係であるが、その構造変化の維持・安定性に寄与することが示唆された。 意義・重要性 (1)について:アロステリック分子の結合を直接観測できたことで、平衡状態のみならず、非平衡緩和過程の性質も調べることが可能となった。また、特定された残基の役割の解析を通して、本研究の目的、つまりアロステリック相互作用の伝達経路の特定とその物理化学的メカニズムの解明、に肉薄できる。(2)について:タンパク質の構造変化が、アロステリック分子に関係する段階とそうでない段階があることが示唆された。アロステリック相互作用を含む、分子認識の全体的描像の確立に貢献すると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画通り、トロンビンのアロステリック効果に関係する残基を特定することができた。また、UIA系については学会発表での議論を通して、論点が明確になった。それを踏まえて一報目の論文を作成し、専門誌に投稿した。当初、研究推進のために他大学のスパコンの利用を考えていたが、GPGPUマシンを用いた方が効率的にデータを集められることが分かり、2台購入した。研究室で使える通常のCPUマシンと合わせて、データ取得の効率が約2倍となった。短時間のシミュレーションに加えて、長時間のシミュレーションでも統計精度を担保したデータ解析が可能になると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
トロンビン系のシミュレーションは、現段階ではアロステリック分子の有無と濃度効果だけを調べている。しかし、今後は基質や阻害剤も視野に入れて、アロステリック効果の伝達過程の機構解明を進める。伝達経路が特定できたら、計画当初から行っていた摂動を加えたMDシミュレーションの結果と組み合わせて、物理化学的なメカニズムの解明に取り組む。UIA系については、塩濃度の影響やRNAとの相互作用も考慮したMDシミュレーションを行う。それをもとに、大規模構造変化とアロステリック相互作用の関係をより詳細に調べ、その伝達過程の解明を進めていく。上記の目的を達成するために新たにGPGPUマシンを購入し、長時間のMDシミュレーションによるデータ取得を加速する。得られた結果を順次、研究論文として専門誌に投稿する。成果をまとめて、国内および国際学会で発表・議論を通し、さらなる研究の深化、発展を模索する。
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Research Products
(2 results)