2013 Fiscal Year Annual Research Report
計算機シミュレーションによるアロステリック相互作用の分子内伝達メカニズムの解明
Project/Area Number |
12J03449
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
栗崎 以久男 名古屋大学, 大学院情報科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | アロステリック相互作用 / 分子動力学シミュレーション / 分子認識 / RNA結合タンパク質 / スプライシング因子 / 血液凝固 / セリンプロテアーゼ / 構造変化 |
Research Abstract |
研究目的細胞内におけるタンパク質機能発現の制御に関わる、アロステリック相互作用の分子内伝達メカニズム解明を行うため、伝達経路となるアミノ酸残基とそれらの相互作用を明らかにする 研究実施計画(1)U1Aが機能を発現する際の構造変化のメカニズムについて、得られた知見を論文としてまとめる。(2)トロンビン系で、平衡状態下でエフェクターであるナトリウムがトロンビンにあたえる影響を調べる。エフェクター分子以外の、環境として存在するナトリウムの影響を検証する。さらに、トロンビン-基質複合体、トロンビン-基質-阻害剤複合体下での、ナトリウムの役割を検討する。(3)アロステリーについての知見を広めるために、ヘモグロビン系におけるアロステリック相互作用のメカニズムの検証について、共同研究を行う 具体的内容と意義・重要性(1)U1A系について、従来RNAとの相互作用下で機能構造への変化が起こると考えられていたが、今回行ったシミュレーションから、構造変化自体は自発的に起こることが示された。U1A-RNAの新規複合体形成メカニズムを提案、論文としてまとめた。ACSのBiochemistry誌に投稿し、現在、査読者とやり取りをしている。(2)トロンビン系について、まず、環境として働くカチオンの効果を調べるために、三種類の異なるカチオン環境の系のシミュレーションを行った。トロンビンの周囲のカチオンの分布を比較し、ナトリウム存在下でトロンビン-基質会合速度が最適化されるのは、ナトリウムが基質のトロンビンへの接近を阻害しないためであるという知見が得られた。また、トロンビン-基質複合体のシミュレーションを行った。カチオンとの局所的な相互作用が基質分子のエネルギー的安定性に影響することが示唆された。(3)ヘモグロビン系については、環境として存在する酸素分子が大規模構造変化を駆動することが示唆された。論文として成果をまとめ、Scientific Reportsに採用された。従来、アロステリック相互作用は、タンパク質と基質の局所的相互作用によって説明がなされてきた。今年度に我々が行った研究によれば、"アロステリック相互作用"の本質は、酵素-基質反応の段階ごとに異なる可能性があることを示唆している。以上の結果はアロステリック効果の概念に再考を促す点で重要である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展している。様々な系に対して、アロステリック相互作用の影響を検証した。それらの類似点・相違点を比較した。一連の研究から、従来のアロステリック相互作用の概念に再考、拡張を迫る結果が得られたことは非常に有意義である。これまでの研究を踏まえ、アロステリック相互作用の物理化学的メカニズムの検証を進めることで、伝達経路の解明に到達できると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、アロステリック相互作用がトロンビン-基質複合体およぼす影響を検証する。今年度には取り組めなかった阻害剤の影響や変異体における活性化の減少についてもそのメカニズムを検証する。異なる条件下でのシミュレーションを行い、それらの結果を比較することで、多角的にトロンピン酵素活性制御の物理化学的な本質に迫る。得られた知見を元に、アロステリック相互作用の伝達メカニズムの物理化学的モデルを提案する。理論シミュレーションから得られた成果を、実験で検証する方法を提案、シミュレーションによる実験値の予測を行う。研究成果は逐次論文としてまとめ、専門誌に報告していく。
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Research Products
(2 results)