2012 Fiscal Year Annual Research Report
現代日本における葬送儀礼の実践にみる死への態度-自然葬を中心に-
Project/Area Number |
12J03611
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
金 セッピョル 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 死への態度 / 社会関係 / 自然葬 / 葬送の自由をすすめる会 / 日本 |
Research Abstract |
本年度は自然葬推進団体であるNPO法人「葬送の自由をすすめる会」の本部があり、会員の半数以上が居住している東京を拠点に、参与観察、インタビューなどのフィールドワークを実施し、得られたデータを分析した。自然葬選択者に共通的にみられる死への態度は、「死んだら無になる」ということである。これまで「死んだら無になる」という言説は、合理主義や生態主義の観点、世俗化の観点から解釈されてきた。これらのグロバールな現象を無視することはできないが、地域や社会状況ごとに固有の文脈が潜められていることが予想される。そこで、日本における自然葬選択者たちにとっての「死んだら無になる」という態度の文化的背景を明らかにしようとした本研究は、新鮮な試みと言える。 特に本年度では、個人と社会の関係のあり方が死への態度に影響を及ぼすという視点を取り入れ、自然葬選択者たちの社会関係について調査を実施した。その結果、彼らには思想的にはもちろん、経験してきた家族史の中でも家制度を拒否するようになったきっかけが存在し、既存の家制度とは異なる家族関係を結んでいることが明らかになった。また、その他の諸関係においても、薄れていく既存の社会関係を代替し、補強しようとする試みはなく、いわゆる「無縁」を「無縁」のまま受け入れようとする独特な姿勢が伺える。 墓は社会関係を反映する空間である。自然葬選択者たちは既存の社会関係が集約される墓を拒否し、散骨して「なくなる」、つまり彼らの言葉を借りると「無になる」ことに執着する。彼らは個人を単位とする社会関係を理想とし、死後はだれかの先祖でも、氏神でも、親でも、会社員でもないこ原子・分子になって分解されるという死への態度を築いてきた。これが日本本土都市部の自然葬選択者たちが語る、「無」に込められた意味である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的を要約すると、(1)共通的にみられる死への態度は何か、(2)それはどのようなメカニズムで作られるか、を究明することであった。本年度は(1)について、本土都市部の自然葬選択者に見られる死への態度が「死んだら無になる」ことであると想定できた。また(2)については、死への態度の形成が、生前の個人の社会関係と深く結びついているという視点を確立し、それに相応するデータを集めることができた。「死んだら無になる」という態度は近年よく耳にするようになった現象であるが、(2)の視点を取り入れることによって、日本における自然葬選択者たち固有の文脈を明らかにすることができた。このような視点は今後、自然葬選択者ではない日本人の死への態度の究明に適用できることはもちろん、通文化的に研究をすすめる上でも有効であると考えられる。本年度の成果を切り口として進めていけば、来年度には概ね計画通りの成果が得られると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)本年度は東京を中心に調査を行ったため、首都圏の傾向に偏る結果となった。しかし10月に実施した沖縄地域の自然葬の予備調査では、本土首都圏とは多少異なる死への態度が伺えた。それは、沖縄地域特有の社会関係に基づいていると考えられる。今後は、数は少ないが、このような地方の自然葬選択者たちにも調査を拡大する必要がある。 (2)2013年1月に、会が設立して以来、初めての会長交替があった。これによって会自体の方向転換が予想される。その方向性は、これまで少しずつ顕在化されてきた自然葬の世代格差とも繋がる部分がある。今後、会の活動や、若い世代への聞き取り調査を通して、自然葬にみられる死への態度がどのように変化していくかに注目する。
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Research Products
(2 results)